Column:知の架け橋
2014年6月1日号
「住を語る」
国際文化学部デザイン文化学科 中尾紀行 教授

普段着のような心地よさを求めて
家具やデザインに工夫を凝らす


2011年の夏に、デンマークの建築家で家具デザインも手がけたフィン・ユールの自邸を訪れた。彼は建築作品よりも彫刻のようなイスで世に知られた人だが、そのイスはこの自邸のためにデザインされたものも少なくないらしい。約60坪の建物は、2棟の切妻を几帳面に並べた端をつないだコの字形で、つなぎの部分には玄関とガーデンルームが収められている。ガーデンルームはまるで温室のような部屋で、壁一面のガラスで庭と接し、外と内とが溶け合うように光と緑に満ちている。その窓辺には簡素な作りつけの小さなソファとテーブルがあり、家具に誘われるようにして明るくすがすがしい空間を体験するようになっている。目立たず控えめながらもちょうどいいところに、ちょうどいい大きさの家具が過不足なく配されていて、気づけば居心地のいい小空間が家の随所に見られるのである。家具の造形ばかりが取り上げられがちだが、その背後には暮らしへの温かいまなざしがある。

10年ほど前、大阪でシンポジウムがあり、インテリアデザイナーの間宮吉彦さんが飲食店のデザインで成功する秘訣を問われて「悪い席を作らないこと」だと答えていた。手がけた店は必ずはやるといわれる彼の勘所に思わず膝を打つ思いもしたが、デザインする対象を「席」と捉えていることにも興味を覚えた。席といえば座る場所のことだが、イスとも座とも違ったニュアンスを感じさせる言葉である。間宮さんは店の家具まで手がける人だが、イスをデザインし、机を作り、壁を仕上げ、天井を張り、照明に工夫を凝らすのも、すべては「よい席」を作るためにほかならないのである。

結婚して子どもができた年に、庭に小さなテラスを作った。雪が深い土地柄のため家の床は地面より高く作られ、その分、部屋と外とに隔たりができてしまう。関西で生まれ育った私は、縁側のような外とのつながりに愛着があり、居間の大きな掃き出し窓を開けると床と同じ高さでテラスにつながるように苦心した。するとどうだろう、庭に一部屋増えたような感じがして、天気がよければ外でご飯を食べ、夕涼みをし、野良仕事をする妻と話をしながらビールを飲んだりして短い夏を楽しんだ。子どもたちも今よりたくさん外で遊んでいたように思う。今は部屋でゲームをしている。その後数回、住まいを変えたが、どの家が好きだったかと子どもに問えば、あの小さなテラスのある家をいつも挙げるのである。

住まいという言葉には普段着のような心地よさがある。ショールームにあるような澄ましたスタイルのインテリアばかりを話題として取り上げてきたせいかもしれないが、学生はデザインを自己表現だと思っており、居心地のよさを忘れることがしばしばあることを残念に思っている。心地よい居場所さえできれば、形なんか本当はなくてもいいものなのだと思う。

 
(写真)フィン・ユール邸のガーデンルーム。薄暗い玄関を抜けると光いっぱいのこの部屋に導かれる。窓の外にはブドウ棚。ソファの後ろに見えるプランターも作りつけ

なかお・のりゆき 1968年大阪府生まれ。京都市立芸術大学大学院美術研究科デザイン専攻修了。専門は家具デザイン。「第34回京都デザイン大賞」大賞受賞、「第4回暮らしの中の椅子展」最優秀賞受賞。東日本大震災の日に東北で生まれた子どもたちに贈る“希望の「君の椅子」”設計なども手がける。