Column:Point Of View
2014年7月1日号
皮膚からデトックス
理学部化学科 関根嘉香 教授

美人はよい香りがするらしい。化粧品会社の女性研究者によると、どうやら地肌のにおい自体がよいそうで、決して香水とかの話ではない。もっとも美人をどう定義するかという前提上の問題はあるが、バランスのよい食事をとり、規則正しい生活をし、適度な運動して健康を維持していることが「美しさ」に関係しているとすれば、なんとなく得心がいく。

筆者は現在、人の皮膚表面から揮発する微量なガス成分―皮膚ガスの研究に取り組んでいる。たとえば、お酒を飲むと体が酒臭くなるが、これはアルコールが体内で分解されて生じるアセトアルデヒドという臭気物質が原因である。なんとなく体臭が薬っぽい人はいないだろうか。過剰にダイエットしたり、絶食したりすると脂肪分が分解され、アセトンという化学物質が発生する。

また運動すると汗の臭いがするが、その成分の一つにアンモニアがある。アンモニアは毒性が強いため、なるべく早く排出しなければならない。どうやら皮膚表面は、これら有毒な成分を排出するデトックス経路の一つになっているようだ。

もし人が皮膚から毒物を排出しているとすれば、これを検査することによって健康診断が可能になる。英国の医学誌に「がん」をかぎ分ける犬がいると報告され、大きな話題になった。これを犬ではなく、簡単な器具で検査できれば、いつでも、どこでも、誰でも容易に健康状態をチェックできる。筆者はその基本原理として、パッシブ・フラックス・サンプラー法という簡易測定法を開発し(特許取得)、現在、大学病院の医師らと共同で臨床研究を行っている。実用化まであと一歩である。

一方、指紋認証の機能がついたパソコンは今や珍しくない。体の特徴を用いて個人を特定する技術を生体認証というが、皮膚ガスも生体認証に利用できるかもしれない。皮膚ガスはそれ自体が拡散するので、非接触で測定できるという利点がある。離れた場所から皮膚ガスを測定すれば個人を特定できるのだ。

最近、加齢臭やミドル脂臭といった臭気物質が相次いで発見されている。美人臭(?)もそのうち見つかるかもしれない。体のにおいを創造的に活用する―新しい科学の扉はすでに開いている。

(筆者は毎号交代します)