特集:研究室おじゃまします!
2014年7月1日号
災害発生時に役立てる
低消費電力で爐弔覆る
新たな情報通信方式を提案

情報通信学部通信ネットワーク工学科 石井啓之 教授 宇津圭祐 助教

3年前の東日本大震災では情報収集の頼みの綱ともいえる通信インフラが長時間にわたって使用できず、大きな混乱をもたらしたことは記憶に新しい。このような事態を再び起こさないためには、どうすればいいのか? 低消費電力で“つながる”新たな情報通信ネットワークの可能性を研究している情報通信学部の石井啓之教授と宇津圭祐助教を訪ねた。

二人の研究の主要テーマとなっているのが、電波塔や基地局などを介さずに、端末同士が情報を直接やりとりできる「モバイルアドホックネットワーク(MANET)」。アドホック(ad hoc)とは、日本語で「その場限りの」を意味する言葉だ。

「携帯ゲーム機同士が、無線通信を用いてゲームデータなどを送受信する爐垢譴舛い通信〞をイメージしてもらうとわかりやすいかもしれません」と宇津助教。一つの端末から発せられる電波が届く距離は限られているが、それを隣の人、また隣の人へと送っていくことで、遠くにいる人にも必要な情報を届けられるネットワークを作ろうというものだ。

スマートフォンやタブレットPCなどをアドホックモードで使用できるように事前設定しておけば、災害が発生してインフラが破壊された際にも最低限の情報のやりとりができる。


GPSを利用して効率よく情報を発見
いいことずくめのようだが、自立分散型のMANETならではの問題もある。各端末が自由に移動していく中で、情報の切断や遅延を起こすことなく、安定した通信経路をどのように見つけて保持していくかという点だ。

「災害発生時に利用するためには、スマートフォンなどのバッテリー消費量を抑えることも重要になります。MANETは既存のネットワークを使うより消費電力が少ないのが特徴ですが、安定的かつ効率的な通信方法を探すことで、さらなる低消費電力化が図れないか考えました」と石井教授は語る。

たとえば自分の家の被害状況を知りたい場合、不特定多数に情報を送る放送型のMANETでは、無差別に問い合わせをするために通信の重複や競合が起こり、電力の無駄遣いを招いてしまう=図1参照。そこでGPSを利用して、1つの端末から発せられる電波が届く範囲の中から目的地により近い端末を探し出すことを繰り返していくことで、必要な情報を効率的に探し当てる「GPS利用効率的情報発見方式」を考案=図2参照。これにより、消費電力を従来の25%まで削減できることをシミュレーションによって明らかにした。

技術を応用して高齢者の見守りも
「ICT機器の爆発的な普及により、電力使用量はぐんぐん増えている。今後、このような状況は世界中で起こるでしょう。だからこそ災害時に限らず、低消費電力でつながる情報通信ネットワークシステムは、これからの社会に欠かせないものになるはず」と指摘する石井教授。これまでの研究成果をもとに、MANETを活用した高齢者の安否確認情報ネットワーク構築の検討も、高輪校舎(情報通信学部)のある港区と連携して始まっている。




focus
師弟コンビで研究に取り組む


2007年度から12年度まで、科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業(CRESTタイプ)に採択された「超低消費電力化データ駆動ネットワーキングシステム」の研究チームの一員として、MANETに取り組んできた二人。精力的に論文を発表して国内外で高い評価を得るなど、大きな成果を挙げてきた。宇津助教の大学時代からの恩師である石井教授は、「私の研究室に偶然、宇津先生のような向上心のある学生が入ってくれたから、研究がはかどったんですよ」と笑う。

石井教授は大学院修了後に入社した日本電信電話公社(現・NTT)で、ISDNのネットワークプロトコルに関する研究などに従事。自分が考えたことが世界標準として使われる経験を重ねたことで、研究の面白さを実感したという。

「大学時代を漫然と過ごすのではなく、自分自身と向き合って、将来について真剣に考えてほしい。そのうえで、一つでいいから自分で決めたことに打ち込んでほしい。誰もが多くの可能性を持っているのです」と学生たちにエールを送る。

 
いしい・ひろし(写真左) 
1954年奈良県生まれ。79年、大阪大学大学院工学研究科博士前期課程修了。同年、日本電信電話公社(現NTT)入社。2001年に筑波大学で博士(工学)を取得。03年4月に東海大学教授に就任。
うつ・けいすけ 
1985年新潟県生まれ。東海大学大学院総合理工学研究科博士課程修了。博士(工学)。日本学術振興会特別研究員を経て、2012年度から現職。