Column:知の架け橋
2010年5月1日号
「環境問題を語る」
農学部応用植物科学科 松浦朝奈准教授

砂漠化・温暖化と雑穀生産
地球の未来に責任を持つ人材の育成を



ぎょろりとした生気のない眼、骨と皮だけの手足、ポッコリ突き出たおなか。私が「農学」を選んだのは、高校時代に栄養失調で今にも死にそうな子どもの写真展との出会いだった。平和で飽食の時代の中の「飢餓」に強い疑念を抱いた。

このことを糸口に、世界中には8億人以上の栄養不足の人々が、ただ単に死を待っているという現状を知った。 その背景の一つに、砂漠化の進行があった。砂漠化は過放牧や過耕作などの人間活動によって土地が荒廃することを指し、その地域には世界の約20%の人々が暮らしている。砂漠化と日本人は何の関係もないように思えるかもしれないが、自給率40%である私たち日本人は、水(食べ物を作るために必要)、食べ物、エネルギーなど、砂漠化地域を含む世界中のあらゆる資源を利用しないと生きていけない。また、今の生活をただちにやめることもできない。では何ができるだろうか。砂漠化地域でも育つ作物はできないだろうか。 作物の生産性を高める方法は、「栽培面積」と「土地面積あたりの収穫量」を増加することであるが、前者は大変困難である。現在、研究が進められているのは、「作物」と「栽培方法」の改良・開発である。

私が対象としている作物は「雑穀」だ。雑穀はもともと「イネ科の小粒穀類」のことをいう。世界には30種近くの雑穀が栽培されているが、作物学的な研究は世界的にも大変少ない。まだまだ未知の部分が多いミステリアスな作物である。雑穀はイネやムギに比べて成長が速く、温暖化で気温が高く、降水量が少なくなってもそこそこ育つ。雑穀のたくましさは、土の中に隠された「根」の成長に基づいている。東海大学に赴任してから10年間、学生たちと「雑穀の根」を調べていくうちに、その重要さが分かってきた。根の調査はとても根気のいる作業なのだが、本学の学生は最後まで投げ出さず、皆で協力して調査を完了する。 圃場から根を取り出すために穴掘りをしていると、学生がニヤニヤしながら近寄ってきて「代わりますよ!」と一言。そういう純朴で優しく責任感のある人柄は、いつの社会でも求められる基本事項であると思う。このような学生たちと、近い将来、砂漠化・温暖化に対応できる雑穀の成長メカニズムを明らかにしたいと思う。

最後に、これからの環境問題を解決するために、農学部のある熊本の初代肥後藩主、加藤清正公を挙げたい。清正公は文武に卓越した才能の持ち主で、「猛将」や「治水の神様」として知られている。「主一無敵」を座右の銘として主君の死後も忠義を尽くし、画期的な治水・利水政策で農業・商業にも優れた手腕を発揮したため人望も厚かったという。清正公が残した言葉に「国づくりは人づくり人づくりは国づくり」がある。これまでの歴史からみても、今後の環境問題の解決には、地球の未来に責任を持つ人材の育成が不可欠である。

 
まつうら・あさな 1965年大阪府生まれ。鳥取大学大学院連合農学研究科修了。博士(農学)。96年4月、鳥取大学乾燥地研究センターCOE研究員、97年9月から九州東海大学農学部助手となり現在に至る。著書に『根の生態学』(シュプリンガー、共訳)、『根のデザイン』(養賢堂、共著)、『根の事典』(朝倉書店、共著)など。