Column:本棚の一冊
2014年9月1日号
『文明の衝突』


世界と向き合う手がかり
観光学部観光学科 服部泰 講師


その日に見た映像はまるで映画を観ているかのようで、現実世界のものとは思えなかった。言わずと知れた2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ、いわゆる「9・11」である。世界を駆け巡ったニュース映像は、その衝撃とともに今でも筆者の心から離れることなく、研究のモチベーションの一つとなっている。

『フォーリン・アフェアーズ』誌に掲載された論文「文明の衝突?」(1993年)をもとに執筆された本書(96年、日本語訳98年)は、軋轢や紛争の絶えない現代世界をどのように理解したらいいのか、いわゆる文明論を軸にその一例を示し、また来たるべき未来を予測するものだった。しかし、世界の構図は冷戦時のイデオロギーの対立から、文明間の衝突に変わると論じ、西欧文明と、中華文明およびイスラム文明が衝突すると予測したことで大きな批判を浴びた。「9・11」を経験して、さらに多くの人々が議論し、現在でも文明の衝突論を超克しようとする試みが続いている。

批判は数多(あまた)あれど、本書が世界中で読まれたことで現代世界のあり方について多くの議論が立ち上がり、その中で「文明」を論じることの意義が広く知られたことは間違いない。文明の衝突論をきっかけに、イランのハタミ大統領(当時)が「文明間の対話」を訴え、国連が01年を「文明間の対話年」と定めたこともよく知られたところであろう。

本書は、西欧文明やイスラム文明などの諸文明に対し、日本を一つの独立した文明と捉え、その役割に言及した点でも興味深かった。筆者は「9・11」の翌年に薦められて読んだが、もっと早くに読めば日本人としてまた違った観点であのニュース映像を眺めることができたのではないかと後悔したものである。

「9・11」から13年ほど経過したが、当時に比して世界情勢はますます混沌とした様相を呈しているように思える。我々は今なお、世界をどのように理解し、自らがどのような立場をとり、どのような役割を果たすのか考え続けなければならないであろう。

日々目にする国際紛争や集団的自衛権のニュースを前にして、今夏久しぶりに本書を手に取った。


『文明の衝突』
サミュエル・ハンチントン著/鈴木主税訳
(集英社)

 
はっとり・とおる 1974年デンマーク生まれ。中央大学文学部卒業、東海大学大学院文学研究科文明研究専攻博士課程単位取得満期退学)。専門は文明学、心理学、観光学。