Column:知の架け橋
2010年7月1日号
「環境問題を語る」
理学部化学科 関根嘉香准教授

路上で学ぶ環境の化学
教室から一歩踏み出す勇気を持とう



初めにクイズです。次のうち、「環境」に関する学習活動はいくつあるでしょう? 〔酊惨兒 ↓天体観測、E朕△体験。これらすべてを環境学習で経験した人もいるでしょう。あるいは環境教育として実践された先生もいるかもしれません。しかし、ちょっと待って下さい。「自然」の学習と混同していませんか。環境と自然はよく同じ意味に取られます。確かに自然科学が扱う環境は、水、空気、土壌であり、時には生物相も対象になります。まさに自然のようではありますが、決定的な違いがあります。それは、人がかかわるか否か。人の周りにあって、人と相互に作用する場が環境なのです。野鳥を観察するだけでは自然学習ですが、人の活動が野鳥の生態に与える影響を調べるときは環境学習になるのです。夜空に浮かぶ月は天体ですが、人が一歩降り立てば、月も環境になります。環境を考えるとき、その主体は「人」なのです。

文系・理系を問わず、大学の授業でも環境問題は頻繁に取り上げられます。大学での学びの場は、「講義」と「実験・実習」。講義では理論を中心に学びます。実験・実習ではあらかじめ用意された教材を使って、モデル化された現象を実演してみます。学生さんは文献やインターネットを使って情報を集め、レポートを書くことがあるでしょう。これらはとても有効な環境学習ですが、私は何かが欠けていると思うのです。

環境化学は、環境中の化学物質の挙動や影響などを研究する分野です。他の分野と違って「環境を保全する」という明確な目的があります。私は環境化学を通じて人と社会の役に立ちたいと思っています。さてこの場合、バーチャルな知識だけでは貢献できません。実際に起きている環境破壊を「五感」を通じて感じ取り、問題を共有することが出発点になります。これを学ぶには、「教室」から一歩足を踏み出す勇気が必要です。

酸性雨の理論は教室で学ぶことができます。しかし酸性雨はどんな味がするのか、においはあるのか、どんな被害があるのかは教室では分かりません。その答えは「路上」にあります。私の環境系授業では、必ずレポートを課します。課題は「酸性雨の影響を受けている文化財・建造物の写真を撮ってくること」。鎌倉の大仏、渋谷のハチ公、大根公園のオブジェなど、学生さんはプチ探検を楽しみながら写真を撮ってきますが、同時に町中で普段見過ごしているものを、環境化学の視点で観察することになります。町のにおい、空の色、道路に積もった砂、ゴミ箱のデザイン……。町と私たちの意識の間に、学びの題材は見え隠れしています。路上におけるフィールドワークこそ、学びの原点といえるでしょう。路上も僕らのキャンパスだ!

 
せきね・よしか 1966年東京都生まれ。慶應義塾大学大学院理工学研究科応用化学専攻修了。博士(理学)。専門は環境化学、無機化学。室
内環境学会評議員・化学物質分科会長。『中国の空 日本の森』『室内環境学概論』など著書多数。