Column:知の架け橋
2010年8月1日号
「環境問題を語る」
産業工学部環境保全学科 金子好雄 准教授

「多自然川づくり」のすすめ
16年間の白川調査から見えること



「川」は都市域に残されたかけがえのない貴重な自然です。しかしそのことに本当に気がついている人はどれだけいるでしょうか。今から16年前の1994年10月と11月に、九州東海大学(当時)の開学30周年記念行事として、学生会主催による白川調査の第1回と第2回が実施されました。今年17年目、第18回になる九州キャンパスの白川調査の最初であり、私が川について本気で考え始める契機の一つになった調査でした。

白川調査を実施するにあたり、白川本線74キロとその支線の黒川19・5キロの調査地点31カ所を決めるため、当時の学生たちと予備調査を行いました。その結果、白川・黒川はほとんど川岸がコンクリートブロックなどによるいわゆる二面張りになっており、現地での水質測定や水生生物調査をするためには橋の付近から河原に下りるしかなく、しかも多くの調査地点でほとんど川に近づけないようになっていました。つまり、川を私たち人間の住む世界の外、外界としてきたのです。したがって、川は洪水をなるべく早く海へ流すための水路、農業用水を取水するための用水路、下水道が完備していないところでは汚水の排水路と化していました。その現実を思い知らされたのが白川調査でした。

普段私たちは川を橋の上や堤防の上から見ることはあっても、川面に触れられるところや、川の中といった「河童の目線」で見ることはほとんどありません。しかし河童の目線にならなければ、魚はおろかカゲロウ類、トビケラ類、カワゲラ類といった底生動物の水生昆虫など、多くの川の中の生きものたちの存在すら気づきもしないでしょう。川を私たち人間のための一種の設備か施設のように考えてきたきらいがありました。一級河川を管理する国土交通省(当時の建設省)も97年、「治水」と「利水」の二本立てであった河川法を「住民参加による河川環境の整備」を新たに加えた三本立てに変更しました。私は、この河川法の改正を「自然としての川」の復権と理解しています。

さて、本来の「自然としての川」とはどんな川でしょうか。別の言い方をすれば「いい川」とはどんな川でしょうか。私はいわゆる「多自然川づくり」に示されているような川だと考えます。2006年10月、国土交通省は、多自然川づくりとは「河川全体の自然の営みを視野に入れ、地域のくらしや歴史・文化との調和にも配慮し、河川が本来有している生物の生息・生育・繁殖環境、並びに多様な河川景観を保全・創出するために、河川管理を行うこと」と定義しています。自然豊かな川は、多孔質な水辺や自然な蛇行があり、浅いところや深いところ、流れの速いところや遅いところもある。全体としては、なるべくゆったりと流れる「場の多様性に富んだ川」がいい川だと考えます。それを体得するためには、自らの五感をフルに使って、川を体験することが一番と思っています。

 
かねこ・よしお 1951年東京都生まれ。東海大学工学部卒業。同大学院工学研究科土木工学専攻修士課程修了。東京理科大学理工学部助手、九州東海大学工学部講師・助教授を経て現職。専門は水環境工学。主な著書に『熊本発地球環境読本』『水環境工学の基礎』『日本の水環境7 九州・沖縄編』などがある。