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コラム

2014/12/01
文系・理系の枠にとらわれず、先生方の専門分野や活動から共通テーマについて考察。文理融合の精神が生きる東海大学の教育・研究を発信します
(Back Number掲載中)

「住を語る」⑧

農学部応用動物科学科
樫村 敦 助教

地下に広がる住まい
モグラの地下生活を垣間見る


阿蘇校舎の農学教育実習場が有するような広大な放牧地は、ヒトや家畜のためだけでなく、さまざまな動植物の生息地にもなっています。その生息地には、どのような哺乳動物が生活しているのでしょうか。

ウシの足下には牧草や野草が生え、さらに下の地面の中にはモグラが生活しています。また、この放牧地の周辺にある森林にはモグラやネズミの仲間が生活しています。これら小さな哺乳動物のうち、私はモグラの生態、特にその食と住について研究してきました。

モグラにとっての住とは何か? というと、モグラはご存じのとおり地下にトンネルシステムを構築し、その中に生活のすべてがあるといっても過言ではありません。しかし、トンネルシステムは一概にモグラの巣とはいえません。システムの一部に地上から樹木の落葉や草類を運び込み、球状にした巣の部屋があり、そのほかの部分には別の機能があると考えられます。

その機能について述べる前に、モグラの食について触れておきます。モグラのエサは地中で生活する土壌動物です。九州産のコウベモグラを捕獲して胃内容物を調査すると、ミミズ類やコガネムシなどのコウチュウ類の幼虫がより多く食べられ、その量も多いことがわかりました。捕獲地に生息している土壌動物の調査結果と過去の知見とを合わせると、縄張りを持つモグラがトンネルシステム内を巡回しながら、トンネル内に落下した土壌動物を機械的に採食する、つまりモグラのトンネルシステムは採食道としての機能があると推察されました。

次に、モグラはトンネルシステムをどのように利用しているのでしょうか。地上から彼らの行動を観察することはできませんが、小型発信器による電波追跡調査(ラジオテレメトリ)により、その行動を明らかにすることができます。そこで、先ほどと同じく九州産のコウベモグラにおいてラジオテレメトリを行い、モグラにとっての住の要であるトンネルシステムの利用について調査しました。

その結果、トンネルシステムの中で利用する区域が時期によって少しずつ変わることがわかりました。また、何らかの要因によってトンネルシステムを占有する個体が変わったとしても、新たな個体が利用する区域は以前の個体と重なることから、家主が変わってもトンネルシステム自体はそのまま利用されていると考えられました。

このように、名前はよく知られているものの、その生態はあまり知られていないモグラやそのほかの野生の小さな哺乳動物がどのような生活を送っているのか研究し、ヒトの生活、特に農畜産業とのかかわりについて明らかにしていきたいと思います。そして、野生動物やヒトの生息域としての住まいについて考えていければと思います。

 
(写真)西日本から九州にかけて生息するコウベモグラの、捕獲後に小型発信器を装着された個体

かしむら・あつし 1980年シンガポール生まれ。東京農業大学農学部卒業。宮崎大学大学院農学工学総合研究科資源環境科学専攻修了(農学博士)。宮崎大学農学部助教などを経て現職。専門は小型哺乳類の比較生理学、哺乳類学。日本哺乳類学会、日本環境動物昆虫学会、日本暖地畜産学会などに所属。

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