Column:知の架け橋
2010年11月1日号
「環境問題を語る」
生物理工学部海洋生物科学科 南 秀樹 准教授

地球温暖化と海洋の関係
微量元素が二酸化炭素抑制の鍵?


今年の夏は暑かった――。札幌に住んでいるともうすっかり過去のことで、そろそろ周辺の山々には雪が降ってきてもおかしくない季節です。それでも地球温暖化は日々確実に進んでいます。地球温暖化と大気中の二酸化炭素濃度の増加には、密接な関係があることは小学生でも知っていることです。

それでは、海洋と二酸化炭素はどのような関係にあるのでしょうか?その一例を紹介します。森林ではそこに育つ植物が光合成を行い、大気中の二酸化炭素を吸収し、酸素を大気中に放出しています。一方、海洋では、わずか数ミクロンの目では見えないほどの小さな植物プランクトンたちが同様の作業を行っています。個々の植物プランクトンは小さいのですが、陸に比べて海の面積は極めて広いため、大気中の二酸化炭素を吸収する効果は大きいのです。

この植物プランクトンはどのようにして発生するのでしょう? 皆さんが庭でガーデニングなどを行うときに草花に与える肥料の中には、リン(P)、窒素(N)、カリウム(K)などの化学物質が多く含まれていて、土にまいてあげると元気に育ちます。同様に植物プランクトンの発生にも養分となる化学物質が必要で、リン(P)、窒素(N)、ケイ素(Si)がそれに該当します。栄養塩と呼ばれるこうした化学物質が表層水中に豊富にあると、植物プランクトンが発生します。ところが近年の研究で、この栄養塩と呼ばれる元素だけでは植物プランクトンが発生しないことが分かってきました。アメリカのモス・ランディング海洋研究所のジョン・マーチン博士らのグループが、植物プランクトンの発生に必要な元素の一つは「鉄( Fe)」だということを明らかにしたのです。

鉄は地殻中で4番目に豊富な元素ですが、海水中には1リットル中に数ナノグラムと極めて微量にしか存在しません。このように、植物プランクトンの発生に密接にかかわる元素を生物活性微量金属元素と呼び、マンガン( Mn)、コバルト(Co)、ニッケル( Ni)、銅( Cu)、亜鉛( Zn)などがあります。このような微量金属元素はどこから海洋にやってくるのでしょうか? 最も大きな供給源は河川ですが、外洋域では雨などの降水や大気中の塵(エアロゾル)も重要な起源となります。

私たちのグループでは1991年から約20年間、札幌キャンパス屋上で降水とエアロゾルの連続モニタリングを行ってきました。また最近では、ロシアのアムール川からオホーツク海へ供給される微量金属元素の輸送過程についても調査し、カムチャツカ半島などでのエアロゾル観測を通じて大気からオホーツク海へ供給される微量金属元素の影響についても研究しています。私たちを取り囲む豊かな海洋は、河川や大気から供給される微量金属元素のおかげで形成され、地球温暖化を抑制する効果が期待されているのです。

 
みなみ・ひでき 1966年長崎県生まれ。東海大学大学院海洋学研究科博士課程前期修了。博士(理学)。専門は地球化学・化学海洋学。日本海洋学会・日本地球化学会などに所属。