Column:本棚の一冊
2015年1月1日号
『経済史の理論』


座右の書を見つけよう
政治経済学部経済学科 高橋 塁 准教授



『経済史の理論』を初めて読んだのは、大学2年生の終わりごろだったと思う。経済学部に在籍していた私は、大学の勉強につまづき、経済学にも興味を持てずにいた。そんなとき、経済学部の一人の先生から「経済学の名著と呼ばれる古典を読むことは、著者の思想がよくわかって面白く、学ぶ者にも忍耐力を与える」との助言をいただいた。そのときから、経済学の古典を古本屋や図書館で渉猟するようになった。

勉強の方法としては、テキストの勉強に時間を割いたほうが効率もよく、実践的であったと思う。しかし、さまざまな古典に触れることは宝物を探しているようで楽しかった。学生の私にとっては、明らかに背伸びであったけれど、なんとなく手が届かないアカデミズムの世界に触れられたような気がして高揚していた。私にアドバイスをしてくださった先生は、当時まだ多かったマルクス経済学者で、難解なマルクスの『資本論』と向き合っていたが、そうした経験の中でおそらく私と同じような感覚を覚えたのではないかと思う。

『経済史の理論』は、そうした古典との触れ合いの中で出会った。この本は「経済史」という名を冠しているが、「市場の勃興」に焦点を当て長期的な経済発展を説明する。商人の役割を中心に据えた歴史に対する視点は、高校などで習った記述的な歴史のイメージと全く違って新鮮だった。著者ヒックスは、経済理論の大家でノーベル経済学賞を授与された一人であるが、彼自身理論の仕事よりも『経済史の理論』でなされた仕事に対して賞が与えられることを望んでいたという。

古典の名著は、初めは難しくてわからず、共感を得られなくとも、後年あらためて本を手にすると新たな発見を得て感動を覚えることがある。この本が出版された当初は、大胆な歴史観から学界から多くの批判があったようであるが、市場の発展を経済発展と捉える本書の視点は、私が専攻する経済史学や、開発経済学の分野で今日定着した見方となっており、今でも多くの示唆を与えてくれる。

自分の成長につきあってくれるのが古典である。ぜひ学生の皆さんにも座右の書を見つけてもらいたい。その候補の一つとして本書を一読することをお勧めする。


『経済史の理論』
J. R. ヒックス著
新保博/渡辺文夫訳
講談社学術文庫

 
たかはし・るい 1975年秋田県生まれ。東北大学経済学部卒業、一橋大学大学院経済学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(経済学)。専門はアジア経済史、開発経済学。