特集:キャンパス展望
2010年6月1日号
大学はハードルがあってこそ
農学部応用動物科学科 伊藤秀一講師

大自然に囲まれた阿蘇校舎の生活は、都会では決してできない体験にあふれています。もちろん、都会でなければ体験できないこともありますが「大自然の中で4年間を過ごした」という少数派は、多くの大学が都市部にあることを考えると、はるかに貴重な存在であると言えます。私が所属する応用動物科学科を例に挙げてみると、何人かの学生は、授業が始まる前に学外の牧場で早朝の搾乳アルバイトをしてから登校してきます。実習でも動物に触れる機会は多いのですが、彼らはそれ以上に動物に触れる機会を作っています。

付属する農場での実習中には、放牧地でノスリ(猛禽類)がネズミを捕獲する瞬間や、テンやタヌキ、キジを目撃することもあります(最近はサルやシカ、夜にはイノシシが出現することもあります)。さらに放課後は、阿蘇草千里に流星群を見に行ったり、ホタルを見に行ったり、少し遠出して天草に釣りに出かけたりと、アウトドアライフを意識することなく、見事に生活の一部にしています。学生は「阿蘇は何もないですからねえ」と不便な環境を嘆きながらも、この環境を楽しんでいるように見えます(ただし、早急な改善が必要な環境もあり、阿蘇校舎一体となって取り組んでいます)。彼らが大学を卒業して都会に戻ったら(さらに大自然環境に向かっていく卒業生もいますが)、ここでの体験がいかに貴重だったかを感じるはずです。「そんなに話題が豊富な君たちなら、合コンでも主役になることは間違いない!」と密かに思っています。

もちろん、この環境になじめない学生もいます。阿蘇だからということだけでなく、大学になじめないのかもしれません。実は学生時代の私も、授業が終わると大学には長居せず、すぐに家に戻っていました。むしろ大学に入った一番の喜びは、集団で何かをする義務から解放されたという点でした。しかし、暗い大学生活だったわけではなく、毎週末どこかに釣りに行ったり、車の雑誌を月に何冊も手に入れて、友達と生涯買うはずもない超高級スポーツカーについて、ファミレスで朝まで激論を交わしたりと、別の意味で充実した学生生活を送っていました。今考えると、「資料を集め、自分の考えを整理して、それについて議論する」という、研究でも重要になる部分を趣味の世界で訓練していたことになるのかもしれません。だから学生には、趣味でも、授業でも、研究でも良いので、この分野に関しては人に誇れる過程を経てきたぞ、というものを持ってほしいのです。

研究室の学生に少し難しい課題を与えると「無理です」と言いつつも、試行錯誤して解決しようとする姿を見ることができます。解決できると「これこそ求めていた大学生活だ!」という顔をしていることに気づかされます。学生には「面倒を見てもらう場所」ではなく、「自分の力を試すハードルを見つけることができる場所」が必要なのかもしれません。今の私がすべきことは、学生がチャレンジできる環境を作り、自分に適したハードルを見つける手伝いをし、解決のヒントを与えることだと考えています。

※阿蘇校舎では、キャンパスの様子を配信するライブカメラを設置しています。ぜひご覧下さい。
http://www2.ktokai-u.ac.jp/~animal/webcam/index.html

 
いとう・しゅういち 1972年千葉県生まれ。麻布大学獣医学部環境畜産学科卒。同大学院獣医学研究科応用動物科学専攻修了。専門は応用動物行動学および動物福祉。