特集:研究室おじゃまします!
2015年4月1日号
自立走行2輪バイクを開発
コマの技術で安定走行を実現

情報理工学部コンピュータ応用工学科 大内茂人 教授

人が乗っていなくても倒れることなく、操縦者の意図どおりに走るバイク……なにやらSFに出てきそうなマシンだが、現実に存在する。回転するコマが倒れない仕組みを応用して、自立走行2輪バイクを開発した情報理工学部コンピュータ応用工学科の大内茂人教授の研究室を訪ねた。

バイクは子どもなら軽々乗れる全長約120センチで、重さは約55キロ。ラジコン操作で動き、舗装路はもちろん、段差や整地されていない地面でも時速約4キロで軽々と安定して進む。停止していても自力で真っすぐ立つし、少しの力で押すと車体は傾くもののすぐに立て直す。普通のバイクや自転車ではあり得ない後進も可能だ。

「自立する仕組みとして“ジャイロアクチュエーター”を搭載しています。重さ5キロの円盤を毎分5000回転させたうえに進行方向に対して前後に傾けることで、物体が高速で回転すると姿勢を乱されにくくなるという爛献礇ぅ躙果〞を使って姿勢を保っているのです」と大内教授は種明かししてくれた。

ジャイロ効果とは、「自転回転する物体について、外部からの力がないときに回転軸が一定の方向を指す(慣性の法則)、外部からの力が加わるときに回転軸が力の方向と90度の方向に回転する」こと。たとえば飛行機や車、携帯電話やデジタルカメラの角度や速度を検知するジャイロセンサとして活用されているが、一方で「アクチュエーター(駆動装置)としての利用は、一般にはあまり知られていない」(大内教授)。

大内教授らの研究室では2011年初頭に、クレーンのつり荷が意図する方向からずれる「ねじれ」を制御する仕組みとして、このジャイロアクチュエーターを活用する方法を考案していたが、「同時期にアメリカで同じ仕組みを用いた2輪車の開発が進んでいることを知り、非常に興味深く感じたことから、日本国内では初となるバイク製作を思い立ちました」と言う。

数式モデルも開発実用化を目指す
開発にあたって大内教授は18世紀の数学者・オイラーが立てた回転運動に関する方程式「オイラーのコマ理論」を応用し、独自にコマをいくつも重ねた「多段コマ」の数式モデルを開発。バイクの車輪を1段目のコマ、搭載したジャイロアクチュエーターを2段目のコマに見立てた。その数式モデルに基づいてテスト機を製作。実験の結果、坂道や雑木林など起伏の激しい場所でも、理論どおりの成果を挙げることに成功したのだ。

自立走行する2輪車としては、日本の企業がすでにロボット型のマシンを開発しているが、「これらは振り子型の慣性ロータでバランスをとっていますが、構造上大きな力を得られないため、大型化は望めず、実用化も難しい」と大内教授。

自立走行2輪バイクは今後、さらに大型化して狄佑乗れる〞システムを目指すという。「アメリカの企業などでは、自動車でも人が運転しない、自動走行車の開発が進められていますが、このバイクもゆくゆくはカメラやセンサーも搭載して、自動走行できるようにしたいと考えています。2輪であれば4輪車が入れない狭い道でも走行できる。さらに災害などの現場で荷物の運搬にも使えるでしょう。あるいは劇場といったエンターテインメントの場でも活用できるのでは」

ジャイロアクチュエーターの回転数を上げることでさらに力を得るか、複数個搭載すれば、理論的には大型化が可能。夢のあるマシンの開発は始まったばかりだ。

(イラスト)進行方向に対して前後に傾くジャイロアクチュエーターがバランスをとる
(写真)バイク上部にジャイロセンサが搭載されており、検出した角度や速度をもとにマイコンが計算して、マシンの中心に置かれたジャイロアクチュエーターを制御している。大内研究室出身で東海大で博士号を取得後、ともに開発に携わった小谷斉之非常勤講師の操縦でテスト走行をすると、なんとも不思議な光景に、キャンパスを歩く学生や教職員が驚いた表情で立ち止まる様子が見られた。走行実験の様子はインターネットに動画が公開されている。https://www.youtube.com/watch?v=_t_YMXrYnb4,https://www.youtube.com/watch?v=JCMvm69RUmE


focus
“先”をイメージして実現するものづくりの魅力を伝えたい



「研究を続ける中で大切なのは、常に先を見ること。計画や具体的なイメージを持っていなければカタチにはなりません」と語る大内教授。

企業では製品の製造ラインの設計や制御用システムの開発に携わるなど、犖従〞での仕事に従事してきた。その後、専門分野の学びを深めようと大学院博士課程に進み、研究者の道へと転身した経歴を持つ。

「企業では売上や成果、新しい知識の習得、昔手がけた仕事の再点検など次々とやることがありますが、大学では授業はもちろん、研究でも自らが取り組みたいテーマに集中できる。企業での経験を生かしながら、先を見て打ち込んでいます」

一方で、若者たちの“ものづくり”への関心を高めたいという思いも強い。「今回製作したバイクを見て、少しでも面白いと思ってもらえたらうれしい。役に立つかどうかも大切ですが、まずは面白いと感じられるかが重要。そうして、多くの人がかかわれば新しい工夫が生まれ、産業として実現していく。この研究をここで終わらせないためにも、ものづくりの魅力を伝えていきたい」

 
おおうち・しげと
1950年鹿児島県生まれ。鹿児島大学工学部卒業。同大学院工学研究科修了。大塚製薬を経て、富士電機製造在職中に、千葉大学大学院自然科学研究科博士課程に国内留学。博士(工学)。96年から東海大学に着任。写真は本人(中央)、バイク開発に携わった小谷非常勤講師(左)、大学院情報理工学専攻2年(当時)の山崎拓哉さん。