特集:キャンパス展望
2010年9月1日号
実践できる学生を社会は求めている
政治経済学部経営学科 小野豊和 教授

2005年9月、初めて湘南キャンパスを訪れたとき、広大で緑豊かな教育環境に驚きと感動を覚えました。「人事管理論」の非常勤講師を務めたのですが、次の春から専任教授として迎えていただくことになり、35年勤めた松下電器(現パナソニック社)を退社し教壇に立ちました。

松下電器では人事、経営企画、広報、国際人事を担当、創業者松下幸之助氏から直接薫陶を受けた最後の世代でもあります。創業者は常々「松下電器は物を作る前に人をつくる会社」と言っていましたが、優れた品を世の中に送り出すためには、経営の心を理解する社員をまず育成することが必要と、人づくりに力を入れていたのです。

経営の心を表現したものが経営理念で、1929年に「産業人タルノ本分ニ徹シ、社会生活ノ改善ト向上ヲ図リ、世界文化ノ進展ニ寄与センコトヲ期ス」という綱領(企業理念)を制定。パナソニックに社名変更(2008年)した今日に至るまで、この短いフレーズを企業経営の中心的使命としています。私の35年の会社勤めの中で判断に迷ったときは、この綱領を読み返し意思決定の物差しにしてきました。組織の構成員にとって共通の目的を持つための指標があることほどありがたいことはありません。

東海大学と縁ができたとき、真っ先に松前記念館に行きました。創立者松前重義氏の人となりを学び、建学の精神の存在を知ったときの感激を今でも思い出し、講義を通じて学生諸君にその価値を伝えています。「若き日に汝の思想を培え、若き日に汝の体躯を養え、若き日に汝の智能を磨け、若き日に汝の希望を星につなげ」 国の行方も人類の将来も、これに携わる人間の思想に左右されることを身をもって体験した創立者の教育理念です。内村鑑三氏との出会い、教育によって国を再建したデンマークの視察から、大学とは「歴史観、人生観、使命感を把握せしめ、以って個々の完成に努力する」ところとの思いをキャンパスで実現させていきました。

9月から、3年生にとって本格的な就職活動が始まります。ゼミの学生に「4つの建学の精神を覚えていますか」と尋ねています。諸君は幸せな環境にいるのだ。世の中の誰が聞いても納得できる明快な精神を、キャンパスの至るところで確認できます。学生諸君、「建学の精神を自らの言葉で語れますか」「大学人生はまさにこの精神の実践だったと誇りを持って語ることができますか」。

企業が求める人材は、成績だけでなく学生自身のアイデンティティー、つまり「自分を語れるか」なのです。「体験に基づくエピソード」「困難をいかに克服したか」を語れるかどうかが面接試験に勝つ秘訣ともいえます。

新カリキュラムで強調している「自分で考える力」「集い力」「挑み力」「成し遂げ力」は4つの建学の精神そのものです。自己の体験を自信と誇りを持って語れる学生を社会は求めています。

 
おの・とよかず 1947年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、松下電器産業(株)入社。人事・経営企画・広報・国際人事を経て、(社)日本在外企業協会に出向。88年に経済広報センター企業広報賞「功労・奨励賞」受賞、2006年より現職。政治経済学部就職委員長。

(写真)湘南校舎にある松前重義総長の銅像と、デンマークから贈られた人魚姫(実物の1/2)を背に