Column:Point Of View
2015年6月1日号
今宵、バーボンが教育を語る
情報教育センター 白澤秀剛 講師

天然氷を入れたタンブラーに琥珀色のバーボンを静かに注ぎ、マドラーをすっと差し入れる。氷がグラスに当たって音を立てないように、だが、バーボンをキリッと冷やすために、スムーズかつリズミカルにマドラーを13回転半。これで正式なオンザロックが目の前に現れる。

「マッサン」のおかげでウイスキーが注目されるようになったが、バーボンはアメリカで生産されるウイスキーの一種だという話をすると、驚く人がいる。まだまだバーボンは一部の人のお酒なのだと感じる瞬間である。

バーボンは内側を焦がしたホワイトオークの新樽に詰めて2年以上貯蔵させなければならない。木製の樽のため、貯蔵している間に蒸発して中身が減っていく。昔の人は、この蒸発する分を天使の分け前と考えて「エンジェルシェア」と呼ぶようになったそうである。バーボンは世界5大ウイスキーの中で最も蒸発量が多く、1年目で10から18%も減ってしまう。だからこそ、熟成が速い。そういえば、情報教育センターの開講科目でもガイダンス時に抽選で履修の権利を得ても、10から20%の人は2回目の授業に来なくなってしまう。「抽選で落ちてしまった人のことを考えてほしい」と怒っている教員も多い。しかしだからこそ、残って履修する人たちの真剣度が高くなると考えれば、無断辞退も「天使のささやきによるもの」といえるのかもしれない。

「熟成と劣化は紙一重」と語るのは、エッセイスト・画家であり、ワイナリーオーナーでもある玉村豊男氏である。私たち教員の仕事は、限られた4年間という期間で、無色透明の新入生を、香り深く味わいのある社会人に熟成させなくてはならない。そして、社会に貢献する人材を輩出することが強く求められている。単に4年間を大学で過ごしただけ、124単位をそろえただけでは熟成とはいえない。

琥珀色の液体が、今日の授業の疲れを癒やしてくれる。それ以上に、東海大学の卒業生がどこかで誰かの役に立ってくれている、社会のために活躍してくれている。このことが、なにより教員たちの疲れを癒やしてくれるのである。今宵、卒業生に思いを馳せて、乾杯。
(執筆者は毎号交代します)

しらさわ・ひでたか 1971年東京都生まれ。東海大学大学院工学研究科博士課程修了。博士(工学)。東海大学工学部航空宇宙学科で非常勤講師を経た後、2006年より現職。専門は宇宙工学・情報教育学。