Column:知の架け橋
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2017/04/01 「未来」を考える
2017年6月1日号
「未来」を考える
東海大学海洋研究所 長尾年恭 所長

大地揺乱の時代を生き抜く
地震予知は最大級の国際貢献


東日本大震災や熊本地震の大きな被害は記憶に新しい。そして地震予知の困難さが喧伝されるようになってからも久しい。確かにこれまで日本の地震学者は予知に成功したことは一度もない。私はまず皆さんに「地震予知は誰の仕事だと思いますか」と問いたい。ほとんどの読者は「それは地震学者の仕事でしょ」と答えるに違いない。実は地震予知は地震学者の仕事とはいえないのである。

地震学者の最大のツールは地震計である。ところが地震計は当然ながら地震が発生しないと動かない。つまり地震を予知するためには“地震計より先に動く装置”が必要となる。そのため、東海地震の警戒宣言発令にも地震計のデータは一切使われていない。

それでは地震予知は誰の仕事なのだろうか。答えは「破壊の物理学」「臨界現象の物理学」といった分野の研究者の仕事なのである。また今後は前兆現象の判別などに人工知能やdeep learningといった分野の研究者が大きな役割を果たすことになる。

地震予知は破壊の物理学をメインとするものであるが、観測上は宇宙からの監視が重要となる。これは大地震がめったに発生しないため、多くの事例を集めるには人工衛星観測はきわめて有効なツールであり、どのようなセンサーを搭載すればよいかについてもわかってきた。

フランスは2004年に地震予知研究のための小型人工衛星(DEMETER)を打ち上げた。フランスの小型科学衛星プロジェクトとしては、第一号の栄誉を担うことでもあった。

地震国ではないフランスがなぜこのミッションを取り上げたのであろうか。一つはフランスの科学界の気質で「アメリカがやらないことをやろう」「世界で最初のことをやろう」というものがある。昔でいえば、世界最深のマリアナ海溝の底に初めて人類が到達したのは、フランスのバチスカーフであった。

人工衛星からの観測は世界中をカバーすることができ、一研究者が一生かかって大地震を数個しか経験できないのに対し、1年間で10個以上のデータを取得できる。今年8月には中国も、地震予知衛星を打ち上げることが決定しており、筆者もゴビ砂漠で行われる打ち上げ式に招待されている。

地震国であり経済大国なのは実は日本だけである。地震予知や火山噴火予知は日本ができる最大級の国際貢献と考えており、その中心に東海大学が位置することができればと筆者は考えている。さらに清水校舎は「想定東海地震」のまさに真上にキャンパスがあり、我々のグループでは、地震予知研究だけでなく、地域の地震防災啓発活動の2本柱で研究を進めている。

 


ながお・としやす 1955年東京都生まれ。東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。専門は地震予知、地震防災啓発活動など。日本地震学会、日本地震予知学会等に所属。著書に『地震前兆現象を科学する』(2015年:共著)等。