Column:本棚の一冊
2018/08/01 『現代語訳 論語と算盤』
2018/06/01 『バナナと日本人―フィリピン農園と食卓のあいだ―』
2018/05/01 『考えるヒント』
2018年8月1日号
『現代語訳 論語と算盤』


利益と道徳の狭間に
国際教育センター 中川 浩 講師



この本のタイトル『論語と算盤』は論語=道徳、算盤=経営として読み替え、人としての正しい行いでもってビジネスをしていく、そういう渋沢栄一の仕事に対する哲学を表しています。その内容は「起業家やビジネスマンを育成するためのノウハウ本」ではなく、渋沢の教育論をまとめたものになっています。
 
渋沢は本書で、論語から人格形成を学び、資本主義の利益主義一辺倒にならず、バランスをとることが大切であると語っています。なぜなら『論語』は、現代に適応しても、最も誤りや誤解が少なく、人間性・人格の磨き方、リーダーとしての「あり方」、人との付き合い方を学べる書であるためだと記しています。そして「算盤」とは、科学技術を学び、会社で仕事をして価値を生み出し、国を豊かにすることだとしています。
 
英語教育者の私はいつも、渋沢のいう「仕事」や「算盤」を「教育」に置き換えて読んでいます。本書に記されている人としての道理や感情に振り回されない科学的根拠の持ち方は、私が普段の授業やプロジェクトを通して学生に伝え、実感できる体験をさせようと心がけていることにほかならないからです。本書は、学生たちがコミュニティーの中で価値観を共有し「教育を通してより心豊かに生きるにはどうしたらよいか」を教えてくれます。
 
たとえば、渋沢はこう述べています。「利益を得ようとすることと、社会正義のための道徳に則るということは両者バランスよく並び立ってこそ、初めて国家も健全に成長するようになる」
 
健全な社会をつくり上げるため、多くの企業が慈善活動や社会活動を推進しています。しかし個人ベースで考えた場合、自分だけよければいいという風潮が多く見られるのではないでしょうか。特にグローバル化が進み、多くの価値観や多様性が交差する現代社会では、Localしか見てない人から見たGlobalな価値と、Global しか見てない人のLocalな価値ではコンセンサスがとりづらいのではないでしょうか。
 
渋沢は本書の中で、あるべき自分を持ち、あるべき社会の姿を考え、自分の進むべき道を進むことの大切さや、学ぶことの大切さ、そして利他的に物事の道理を見据えて行動することの大切さを、社会のあり方とともに伝えています。
 
日本実業界の父と呼ばれた渋沢栄一の哲学を、皆さんもぜひ読んでみてください。


『現代語訳 論語と算盤』
渋沢栄一(守屋淳訳)
ちくま新書

 
なかがわ・ひろし  1979年石川県生まれ。キャロル大学教育学部卒業。ノースセントラル大学大学院教育学研究科博士課程(第2外国語教育)修了。教育学博士。専門は教育言語学、国際教育学。著書に『ようこそ!ニッポンへ 映像で学ぶ大学基礎英語 留学生の日本文化体験』(朝日出版社)などがある。