Column:本棚の一冊
2018/10/01 『出会い系のシングルマザーたち―欲望と貧困のはざまで』
2018/08/01 『現代語訳 論語と算盤』
2018/06/01 『バナナと日本人―フィリピン農園と食卓のあいだ―』
2018年10月1日号
『出会い系のシングルマザーたち―欲望と貧困のはざまで』


あなたの知らない興味深い世界
健康学部健康マネジメント学科 古城隆雄 准教授



「今の学生は、本を読まない」――。昔からよく言われるが、大学生時代の私は、まさにそうだった。本が嫌いだったわけではない。マンガや小説は、それなりに夢中で読んでいた(今も)。ただ、いわゆる大学生が読むべき「学術書」は、どうも睡魔が押し寄せて……。

少しまじめに書くが、本の価値は、自分が知らない世界や価値観、知識に、格安の値段で触れられることにある。著者が本を書くのに費やした労力を考えれば、本の値段は、決して高くはない。

だから、自分の世界を広げてくれるのであれば、どんな本だっていい。興味が湧くものを手に取って、気に入らなければ次へ次へと手当たり次第に読めばいい。そういう意味では、図書館や書店は最高の場所だ。新刊コーナーがあり、ジャンル別に分けられている。書店ならば手書きPOPで、読みどころを丁寧に紹介してくれている。大学図書館は、それに比べれば不親切かもしれないが、これほど多くの本があるところは、ほかにはない!(社会に出て、その価値に気づいたら、ぜひどこかの大学図書館の利用者登録をしよう)

前置きが長くなった。もっとかしこまった本はあるけれど、あえてお勧めしたいのは、鈴木大介著『出会い系のシングルマザーたち』である(ちなみに私の専門とは全く関係ない)。理由は3つ。1つ目は、あなたがきっと知らない、興味深い世界がそこに描かれているから。2つ目は、こんな体当たりな研究をできたら、さぞ楽しいと思えるだろうから(社会学や質的研究に少しでも興味がある人はぜひ)。3つ目は、きっとほかの本も読んでみたくなるだろうから。

この著者は、実際に出会い系サイトに登録して、売春をしているシングルマザーから話を聞いている。「生活保護を受けると子どもがいじめられそう」という理由でサイトを利用している女性。「誰かと話したいけど、誰にも見られたくない」と、住んでいる地域から離れた場所で客を取る女性。精神疾患を抱えながら、やむを得ず出会い系に頼る女性……。そこには、下世話な興味からは予想もつかない女性が何人も登場し、社会のリアルと不条理さをまざまざと見せつけられる。

もしこの本を読んで興味がむくむくと湧いたら、どんどん他の本も読んでみよう! 阿部真大『搾取される若者たち』(集英社新書)、佐藤郁哉『暴走族のエスノグラフィー』(新曜社)、荒井悠介『ギャルとギャル男の文化人類学』(新潮新書)を紹介しておく。

『出会い系のシングルマザーたち―欲望と貧困のはざまで』 
鈴木大介著
朝日新聞出版

 
こじょう・たかお 1979年神奈川県生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修了。専門は地域医療政策、社会保障論。著書(共著)に『生命と自由を守る医療政策』(東洋経済新報社)などがある。