特集:研究室おじゃまします!
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2019年6月1日号
椎間板再生医療を加速させる
大学主導の産学連携で
医学部医学科外科学系整形外科学 酒井大輔 准教授

厚生労働省の調査では日本人の約4分の1が腰痛に苦しんでおり、その主な原因は椎間板障害だという。医学部医学科の酒井大輔准教授(外科学系整形外科学)らは、傷んだ椎間板を再生医療で修復再生する新たな治療法を開発。今年5月から医学部付属病院で国内初の治験を開始した =本紙5月1日号で既報 。大学の研究者主導による産学連携で、最新の治療をいち早く患者に届けようと奮闘する酒井准教授の挑戦を追った。

「再生医療実現のためには、有効性はもちろん、低コストであることが重要です。注目されている人工多能性幹細胞(iPS細胞)に関する研究は十数年前から多くの費用を投じて進められていますが、まだ一般的な治療には至っていません。こうした中、社会のニーズにマッチした、有効かつ低コストな治療法をより早く提供しようと開発したのが、治験を開始した再生医療です」
 
この治療は、成人ドナーの椎間板由来細胞から作製した細胞治療製品「IDCT―001」を患者の椎間板に投与して修復再生を促すもの。治験により安全性などが確認できれば、厚生労働省の承認を経て一般診療に用いられる。
 
酒井准教授は、椎間板変性に対する幹細胞移植療法や国内初の自家椎間板髄核細胞移植療法の臨床研究により、世界に先駆けて再生医療の有効性を報告してきた。治験はこうした研究の積み重ねを経て開始に至ったが、「大学側が企業に働きかけて実現させたことにも大きな意義がある」という。

医師のリードでアイデアを製品化
「現場の医師は新たな治療法に関するアイデアを持っていますが、そのアイデアを製品化して患者さんに届けなければ意味がない。本気で新規医療の実現を目指すなら、医師が考案した治療法や薬剤の有効性を自ら企業に発信し、医師のリードで産学連携を進めるしかない」と力説する。
 
しかし、臨床研究から治験に至るまでにはこえなければならない多数のハードルがある。「少しも早く患者さんに有効な新規治療を届けるためには、研究資金の獲得や知的財産権に関する知識も不可欠。研究が評価され、大学が企業とともに発展していくためには、産学連携の新たなスキームと緻密な計画が求められる」と語る。

学内外と共同研究 “3本柱”の進展図る
こうした考えに賛同した製薬会社とタッグを組み、今年度から新たなプロジェクトも開始した。自らサイエンティフィックアドバイザーとして企業運営に参画。産学がそれぞれのノウハウを生かしてマーケティングから研究開発、製品化、治験、診療の循環をつくり、新規医療の実現を加速させるのが狙いだ。
 
プロジェクトの柱は3つある。「1つは再生医療。10代、20代のヘルニア患者から採取した椎間板由来細胞を用いて、より再生効果が期待できる製品を開発中です。さらに、京都大学iPS研究所と共同で、iPS細胞から椎間板細胞を作製する方法を開発し、すでに特許を出願しました」
 
2つ目の柱は創薬。先進生命科学研究所や総合医学研究所と連携し、コンピューターを用いて低コストで作製できる、皮膚の炎症性疾患の治療薬開発に取り組んでいる。 

思春期に発症する特発性側弯症の原因解明や早期診断、動作解析に関する研究が第3の柱。体育学部やスポーツ医科学研究所との共同研究を進めているが、「研究が遅れている疾患だからこそ、事業に組み入れて進展させたい」と意欲を見せる。
 
こうした先進的な研究が評価され、日本学術振興会や日本医療研究開発機構からの大型研究費も獲得した。
 
「今回の治験は椎間板再生医療のスタートライン。プロジェクトを立ち上げた以上、後戻りはできない。定年退職までにどこまで進められるか……」。さらに挑戦は続く。




Focus
トップレベルの研究を次世代に引き継ぐ



学生時代から常に意識していたのは、世界トップクラスに位置する同世代の研究者。「どんな研究をどのレベルで展開しているかを見据え、それをこえる成果を目指して研究に取り組み、論文を発表することを自身に課してきた」という。
 
そうして積み重ねた研究成果は世界から注目され、連携やアドバイスを求める研究者や企業は後を絶たない。
 
「東海大学から超トップレベルの研究成果を発信し続ける│」それが、東海大に所属する医師、研究者、教育者として、卒業生としての矜持だ。その根底には、医学研究や臨床における東海大の底力を世界の研究者らに認めさせたいという強い思いがある。
 
「研究を牽引し、リードしたまま後輩にバトンを渡すのが卒業生の使命。研究をつなぐ重要性わかってもらうためには、自分の活動を間近に見せなければなりません。常にトップをこえることを目指さないと、リードは保てない。その姿勢が一人でも多くの学生に響いてくれれば」と話す。
 
「新しいことにチャレンジできるのは、整形外科チームをはじめ、大学や付属病院の教職員の理解と協力のおかげ」。それに報いるためにも、日々、全力で走り続ける。

さかい・だいすけ 1973年東京都生まれ。東海大学医学部卒業、同大学院医学研究科博士課程修了。博士(医学)。

 
(図表)治験に用いる細胞治療製品「IDCT-001」は、アメリカ・ディスクジェニックス社製。成人ドナーから採取した椎間板生細胞から、同社の特許技術により椎間板幹細胞を分離し、そこから生成された細胞(DiscospheresTM)を凍結したもの。スカフォールド(ヒアルロン酸)と混合して変性椎間板に注入すると、移植された細胞により細胞外マトリックスが産生され、椎間板が修復・再生される
(写真)酒井准教授(右から2人目)と研究室のメンバー。チーム一丸で研究に取り組む