Column:Point Of View
2017/08/01 目的地への途中が目的のタビ
2017/07/01 スイヘーリーベボクノフネ
2017/06/01 「ジワジワーッ」
2017年8月1日号
目的地への途中が目的のタビ
経営学部観光ビジネス学科 高野誠二准教授

良いタビってなんですか?

私が思うに、旅のすてきさを決定づけるのは、どこに行くかよりも、どのように行くかです。自分の旅では、目的地での楽しさは全体の20%程にしかなりません。50%があれこれ旅計画を練る楽しさ、往路と復路の楽しさがそれぞれ20%です。そう、行き帰りの道中で努力を厭わず工夫を凝らすと、旅に出た実感や目的地に着いた達成感が大きくなり、その思い出は他ではマネできない境地、楽しさ100%越えにできるのです。

今までで屈指の感動の旅がありました。4年前に熊本校舎に就職が決まった時の移住の旅です。まだ1歳だった息子には無理でも、5歳の娘とカミさんが、遠くの別の島に移り住んで新しい生活を始める実感を胸に刻んでもらえる旅にしようと思いました。

東京で引っ越し荷物を出して熊本で受け取るまでの期間を目いっぱい延ばしたら3泊4日。この時間が、家族みんなで車中泊しながら熊本を目指す旅です。座席がフラットに倒れるバンを探し求め、ちびっこ用2段ベッドを日曜大工して、キャンピングカーもどきを自作しました。ところで、私がどんなこだわりの場所へどんなこだわりの行き方で旅したい! と言い出しても、うちのカミさんは文句一つ……二つ言うだけでついて来てくれます。いつも(たぶん)私と心一つのすてきなカミさんです。

いざ出発。富士山や通天閣、安芸の宮島と、子どもに地図を見せつつ西へ西へ。日没時間も少しずつ遅れ、地球の丸さも実感します。最後の寝場所はとっておきの壇ノ浦。逆巻く潮を前に、ご先祖様が一族のために命を懸けた海なんだよと娘に話しました。

旅に出たことを実感するコツは、場所の境界を越す時を五感と心に刻むことです。海峡の日没を眺め、夜景を楽しみ、日の出の陽光に包まれて光る海を眼下に、大きな橋を九州へと渡りました。そこですれ違ったのは桜前線。マラソン選手に沿道の観客が拍手を贈るように、はるばるやってきた私たち一家を道々の桜は皆笑顔で迎えてくれました。たどり着いた熊本はお城も大学も桜満開の日。人生の区切りとそこでの決心を忘れないための旅。娘は今でも、この旅の思い出を抱いてくれています。ただ目的地へ急ぐだけのタビって、失うものが大きいなって思いませんか?

(筆者は毎号交代します)