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2020年10月1日号
男子柔道部が稽古を再開
自ら考え行動する力を養い
犲他共栄瓩廼杁淹態を乗りきる

新型コロナウイルスの感染拡大防止のため活動を自粛して 男子柔道部いた男子柔道部が9月14日、約5カ月半ぶりに稽古を再開した。“3密”が避けられない競技だからこそ、大学のガイドラインのほかに部独自のガイドラインも作成し、体調管理や感染防止対策も徹底。「困難な状況でこそ人は成長する。自覚と責任を持って、現実から逃げずに日々の稽古に向き合ってほしい」と指導する同部の上水研一朗監督(体育学部教授)に聞いた。

同部では3月に関西や愛知で予定していた遠征合宿を取りやめ、3月末には全日本柔道連盟から4月に予定されていた主要大会の延期が発表された。4月1日に大学から課外活動の自粛要請があり、上水監督は、「柔道部は大学の一組織ですから、その意向に従う」と、寮生活を送る全部員を実家に戻した。

「当初は4月下旬には再開する予定でしたが、授業がすべて遠隔になり、当分の間キャンパス内への入構が禁止になった。これは大変なことになったと思いました」

解散後、選手たちには具体的な練習メニューは示さず、代わりに部独自の行動指針を作成してメールなどで送った。「人から言われたことしかできない、もっと言えば、言われなければやらないという受動的な人間になってしまうと、社会に出たときに苦労します。自分で考えて行動することで、何事も能動的にできる力を磨くチャンスにもなると捉えていました」

緊急事態だからこそ、「柔道を一番に考えてはいけない」と力を込める。「まずは命を守る行動をとること。自分の命はもちろん、身近な人や社会全体の方々の命を大切にする。柔道には嘉納治五郎先生が掲げた自他ともに栄える世の中をつくる『自他共栄』という考え方があります。今回はまさにその考え方が大切だと思いました」

自分の柔道と向き合う 己の心に勝つ“克己”胸に

「次に取り組むべきは学生の本分である学業で、柔道は優先順位の3番目。接触競技である柔道の活動が許されるのはおそらく全競技の中でいちばん遅い」と考えた上水監督は、解散後に一度だけ選手たちに動画を送り、自分の柔道を見つめ直すことを求めた。「選手たちがこれだけ長い期間、柔道から離れるのは初めて。だからこそ、気づくことがある。足りないものを見つけ、できることに取り組むように、と伝えました」

5連覇がかかっていた全日本学生優勝大会をはじめ、全日本学生体重別団体優勝大会、全日本学生体重別選手権大会と、今年度の学生大会はすべて中止に。「4年生の気持ちを考えると非常に苦しかった」と明かし、選手には「自暴自棄になりかねない出来事だけど、現実から目をそらさないでほしい」と強調した。

「我々はどうしても試合ありきで柔道をやっていた部分が強かった。試合に勝ちたい、優勝したいという思いが原動力でしたし、これを否定するつもりはありません。でも、それだけになってはいけない。そもそも柔道の修行の目的は、己の心に勝つという『克己』にある。どれだけ理不尽な仕打ちにあっても、自分を見失わずに制御し、コントロールできるかどうかが重要です」

学生大会がすべて中止も稽古再開で体に火がともる
当初、9月頭からを予定していた稽古再開は、社会情勢や他チームの動向に鑑み、2週間遅らせた。保護者から承諾書をもらい、感染予防策をとったうえで、第1陣として10月31日、11月1日に講道館杯全日本体重別選手権大会を控える選手や希望者ら50人が集合。練習は1日2時間、武道館に一度に入れるのは30人までといったガイドラインを守り、軽量級と重量級を午前と午後に分けるなどして稽古を始めた。

各自で自主練習をしていたとはいえ、当初は多くの選手が思うように動けたわけではなかった。しかし、上水監督は「一時的にパフォーマンスが落ちるのは仕方ない。それよりも再び柔道ができるということで体に火がともったように見える。現段階はこれでいい」とし、「大会も控えてはいますが、試合に間に合わせようと急にアクセルを踏むと大けがにつながりかねません。柔道に飢えていたからこそ、多くのことを吸収しやすい状態にある。目先の戦いを追い求めるのではなく、半年から1年ぐらいかけて体をつくっていく必要があると考えています」。

未曽有の事態に直面し、各自が考えて取り組んできたことは、今後の稽古や試合の中で成果として現れてくる。コロナ禍で一回り成長した男子柔道部が、再び走り始めた。 (取材=小野哲史)

(上写真)選手はマスクを、上水監督はフェイスシールドをつけて指導
(下写真)「日々の生活にも稽古にも制約があり、適応力や対応力が求められています。高いハードルですが、成長のチャンスでもある」と話す上水監督

 
検温や消毒を徹底「責任ある行動を」

9月14日午前10時、湘南校舎の武道館に男子柔道部員たちが戻ってきた。入り口で検温し、手指を消毒。2週間の健康観察表も提出した。

集まった選手たちを前に上水監督は、「解散以前に戻るのは難しい。しかし、立ち止まってはいけない」と語りかけた。「誰か一人に症状が出たら、ほかの部活も活動停止になるなど、柔道部だけの問題ではすまなくなる。どんな行動をしようが個人の勝手、とは言えない。“覚悟を持って戻ってくるように”と言ったとおり、責任のある行動をするように」と話し、最初の2週間は寮と武道館、トレーニングセンター以外は出歩かないよう求めた。

その後、部員たちは畳の上をホウキで掃き、アルコールで拭くなど、約5カ月半使っていなかった武道館を掃除。続いて5分間のランニングから稽古を始め、短距離走やサーキットトレーニングなどに励んだ。3日目からは柔道着で組み合う稽古も再開。マスクをしたままでの稽古に「苦しい」「きつい」と話しながらも、選手たちの顔は充実感に満ちている。「一人でもトレーニングをしていたけれど、やっぱりみんなで稽古するのは楽しい」と口々に語っていた。

軽量級主将の渡邊神威選手(体育学部4年)は、「2年連続の学生団体2冠、個人戦での連覇を目標にしてきたので、大会が中止になったときはつらかった」と振り返る。それでも、自粛期間中に同級生と何度も連絡をとり、励まし合い、話し合いを重ね、「昨年度までの大会で積み重ねてきた経験を後輩に伝え、来年度以降の大会に向けて力になりたい」と前を向く。

「試合に負けてもいい。ただし、絶対に逃げるな」と上水監督は選手たちに説く。「“コロナのせいで練習ができなかった”と言うのはただの言い訳。その中でどうやって結果を出すかを考えることで成長できる」

(上写真)稽古初日、アルコールモップを使って畳を掃除。日々の稽古の始めと終わりにも必ず消毒している
(下写真)体力を取り戻すべく取り組んだサーキットトレーニング