share

コラム

2021/08/01
何度も読み返した小説やマンガ、学生時代に読み込んだ教科書、人生を変えた一冊など、東海大学の先生方が大切にしている本を紹介します。

『自分の中に毒を持て』


“非”常識人間との対話
語学教育センター 鷹取勇希 助教



「かくあるべし」。この言葉に違和感をおぼえる人、「マニンゲン」くそくらえという人へ。

私は「ドクショ」があまり好きではない。視覚的情報搾取、その最たる行為に自分の思考が(幾許か)制限され、囚われてしまう状態にキモチワルサを感じるのだ。むしろ、自分の直感と感覚で如何様にも想像を膨らませられる「オンガク」という聴覚的刺激を好んできた。これは、愛読家とはマハンタイの私が紹介する著作である。

かの有名な岡本太郎、ご存じ「芸術は爆発だ」の男が遺した本。出遭いは、この言葉を初めて聞いてから25年ほど経った、とある教職の授業。どこかオナジニオイのする恩師が推薦する図書一覧に載っていた同書は、「直感型感覚人間」とでもよぶべきニンゲンにピッタリだった。

“非”常識人間に相応しい“いかにも”なタイトル。詳細は同書に譲るが、冒頭から言っている意味がまるでツカミヅライ。が、繰り返し読む。男は、自分の可能性に賭けて人生を最大限に膨らませ、自分に対して闘いを挑み続け、新しい自分を見つけていくことが大切だと説く。ひたすらポジティブな男、タダモノではない。

その一生をひたすら情熱的に終えた男は「“人間らしく”生きる道を考えてほしい」という。自分の人生は誰のものでもない。思うがまま生きる。モノを押しつけられ対抗しようともせず、ただそのイチブに成り果てる。そんなのは御免だ。うまく利用され使い捨てられる。赤の他人に服を着せられる。ポーズを決められる。やることをすべて支配されるなし崩し的無抵抗。そんな、まるで量産型のマネキンのようなシんだニンゲンに成り果てるなんてまっぴらだ。「使い捨てる代用品はいくらでもある」のではなく、「貴方でなければ駄目だ」という人間になるのだ。

人生は可能性に満ちあふれた真っ白いキャンバスだ。思い思いに絵の具をぶちまけ、好奇心を爆発させていくことこそ人生だ。自由と本能を「カタ」にはめ、ツマラナイ絵にしてしまうのはもったいない。私は、同書を〝自分を変えるための人生バイブル本〞として絶対に読むべきだ! などと押しつける気は毛頭ない。ただ、その「カタ」に対して憤っているのなら、昨今どこか鬱屈した気分になっているのなら、その思いとともにこの“非”常識人間と納得がいくまで対話をしてみてはどうだろう。見事、“非”常識人間に成ったら、「人生は爆発なのだ」と叫んでやろうじゃないか。


『自分の中に毒を持て―あなたは“常識人間”を捨てられるか』
岡本太郎著
青春文庫

 

たかとり・ゆうき 1985年埼玉県生まれ。博士(文学)。専門は言語社会学。

本棚の一冊記事一覧

2021/09/01

『都鄙問答』

2020/09/01

『おめでとう』

2020/08/01

『暗夜行路』

2020/08/01

『ハーメルンの笛吹き男―伝説とその世界』

2020/08/01

『一九八四年[新訳版]』

2020/07/01

『42.195kmの科学 マ ラソン「つま先着地」vs 「かかと着地」』

2020/07/01

『シネマトグラフ覚書 映画監督のノート』

2020/07/01

『世界はうつくしいと』

2020/06/01

『宇宙のランデヴー』

2019/08/01

『予防医学のストラテジー』

2019/04/01

『殺人犯はそこにいる』

2019/03/01

『射影平面の幾何学』

2019/01/01

『源氏物語 上』 

2018/12/01

『古井由吉自撰作品三 栖/椋鳥』

2018/10/01

『出会い系のシングルマザーたち―欲望と貧困のはざまで』

2018/08/01

『現代語訳 論語と算盤』

2018/06/01

『バナナと日本人―フィリピン農園と食卓のあいだ―』

2018/05/01

『考えるヒント』

2018/02/01

『将棋の起源』

2017/08/01

『純粋理性批判』

2017/07/01

『ヨーロッパ統合』

2017/04/01

『TOKYO STYLE』

2017/03/01

『鉄道廃線跡を歩く 失われた鉄道実地踏査60』

2016/12/01

『現代・法人類学』

2016/10/01

『けっぱり先生』

2016/07/01

『陰獣』

2016/06/01

『宗教と科学的真理』

2016/05/01

『春の戴冠』

2016/04/01

『子どものからだとことば』

2016/03/01

『Principles of Chemical Sedimentology』

2016/02/01

『コンタクト』(上・下)

2016/01/01

『エンデュアランス号漂流』

2015/10/01

『マインド・コントロールの恐怖』

2015/09/01

『赤の発見 青の発見』

2015/08/01

『答えは必ずある』

2015/07/01

謎とき『罪と罰』

2015/06/01

『シルバ~アート 老人芸術』

2015/05/01

『変貌するチームリーダー』

2015/03/01

『おしゃれなエコが世界を救う』

2015/02/01

『かもめ』

2015/01/01

『経済史の理論』

2014/11/01

『キャッチャー・イン・ザ・ライ 』

2014/10/01

『愛の試み』

2014/09/01

『文明の衝突』

2014/08/01

『落日然ゆ』

2014/07/01

『ホーン岬への航海』

2014/06/01

『白鯨』(上・中・下)

2014/05/01

『電気化学測定法 上・下』

2014/04/01

『テレマン 生涯と作品』

2014/03/01

『春宵十話』