特集:教育の現場から
2012年12月1日号
文学部と芸術工学部が連携
発掘調査を通じて協働  
学部連携で新たな学び


旭川校舎で11月4日、公開シンポジウム「景観史から見た立岩山チャシと上川アイヌの文化」が開催された。文学部歴史学科考古学専攻が2008年度から2年間、旭川校舎内で行った遺跡発掘調査の成果をもとに、アイヌ文化や旭川市の成り立ちを考えるもの。校舎や学部の枠をこえた教育・研究の現場を訪ねた。

「チャシ」とはアイヌ語で「柵」または「柵構え」といわれる施設のこと。旭川校舎北部の約500平方メートルの斜面で、1988年に初めて発掘調査が行われ、その存在が明らかになっていた。今回のシンポジウムで発表された調査は、東海大学総合研究機構のプロジェクト採択を受け10年度まで実施された、文学部の「日本の近・現代史における北海道をめぐる人文科学的総合研究」(北海道プロジェクト=KeyWord参照)の一環。

「アイヌ民族とチャシ」をテーマに、考古学専攻の北條芳隆教授が発掘調査団長を務め、2年間で延べ40人の学生が参加。夏季休暇中などを使って発掘してきた。「芸術工学部のあるキャンパスの調査ということで、相互に交流しながら、教育研究を深める機会とする狙いでした」と北條教授は振り返る。

学生たちは旭川校舎に泊まり込みで発掘に臨んだ。調査に参加し、今回のシンポで発表に立った大学院文学研究科博士課程の永谷幸人さん(伊達市噴火湾文化研究所非常勤特別職)は、「考古学とは全く異分野の芸術工学部の教職員や学生らとの交流で視野が広がりました」と話す。北條教授は「調査だけに終わらず、ランドスケープデザインなど考古学以外の分野での考察を得られた」と語る。

チャシのモデルを制作 日ごろの学びを生かす

シンポの開催に合わせて旭川校舎では、10月29日から11月10日まで、展示会「考古学から見た聖なる丘」も開催された。芸術工学部の大野仰一教授は、「1972年に前身の工芸短期大学が旭川校舎に設置され、今年で40年の節目。キャンパス内の研究成果を地域に紹介したかった」と話す。

展示会では、出土した「炭化した柵材」や発掘状況の写真に加え、1/10スケールの「土留め柵列復元イメージ模型」も紹介された。大野真幸さん(大学院芸術工学研究科1年)、鈴木はなさん(芸術工学部3年)、高田沙知子さん(同)がこの展示会のために制作したものだ。「普段のものづくりとは全く指向が違うものを作れて楽しかった」と声をそろえる。北條教授のスケッチをもとに段ボールで地層を表現。柵は実際に使われていたイチイやナラなどの材料を用いた。「想像以上の完成度」と北條教授も笑顔。

発掘調査時から協力してきた芸術工学部の田川正毅教授は、「旭川の学生にとっても、校舎の隠れた一面を知り、日々の学びにつなげる貴重な機会になりました。今後も連携の機会をつくりたい」と意欲を語っている。

 
(写真上)シンポジウムに先立ち、旭川校舎1号館裏手のチャシを見学する参加者ら。2年間の調査では、チャシを囲む柵の燃え跡など貴重な発見があった
(写真下)左から鈴木さん、大野さん、高田さん


アイヌ文化の成り立ち考察 チャシの役割に迫る

シンポジウムでは、北條教授をコーディネーターに、永谷さんと、学生たちの指導役も担った旭川市博物館学芸員の瀬川拓郎氏が登壇。地元の歴史愛好家や学生、教職員ら約30人が参加した。永谷さんは、「チャシはなぜつくられ、柵は燃やされることになったのか?」をテーマに講演。発掘調査で見つかったチャシを覆う柵が燃やされた痕跡などについて紹介し、チャシの役割やそこで起きたと思われる他の地域に住むアイヌとの争いや和睦について解説。

「チャシには生活の痕跡がないうえ、柵の燃え跡を見ても争いの跡がないので、何かの儀式に使われていた可能性が高い。柵は燃やされたのではなく、他のアイヌに和睦をアピールするために自ら燃やしたのでは」と推論を披露した。

続いて瀬川氏が「上川盆地の景観史」をテーマに、明治時代の旭川市開拓の歴史や現在まで続く市街地の成り立ち、アイヌの人々の暮らしなどについて話した。また、最後に東海大学の付置研究所である北方生活研究所所員で、調査にも協力した大野教授と田川教授も加わりパネルディスカッションを実施。両教授は専門の建築やランドスケープデザインの視点から意見を述べ、「今後もこのキャンパスのある土地の歴史を伝えていく必要がある」と話した。

 
(写真)来場者からも活発な意見が飛び交った


もう一つの話題
文学部アジア文明学科

「廃校」を利用してコミュニティーの再創造を目指す

文学部アジア文明学科の学生有志6人が、8月15日から26日まで新潟県佐渡市の羽茂地区で地域コミュニティーの実態調査を実施。11月7日から14日まで湘南校舎文学部展示室で研究成果を披露したほか、13日にシンポジウムを行った。この活動は同学科の杉本浄講師が立教大学の教員らと、廃校利用を通じたコミュニティーの再創造を住民と模索しようと立ち上げた「廃校プロジェクト」に参加したもの。立教大と首都大学東京、東海大の学生が初めて合同調査を実施した。

廃校は日本各地で増加しており、学校がハブ(結束点)の役割を果たしてきた地方ではコミュニティーの衰退につながっている。「佐渡市は約4割の小中学校が廃校予定のため、モデルケースとして取り組んだ。現場から学ぶことは大きい」と杉本講師。

東海大班は山間の大崎集落を担当した。「文弥人形」を使った独自の人形芝居や「念仏講」「そばの会」の活動に注目し、住民への聞き取り調査を実施。芸能と生活の結びつきや人々のつながりなどをたどっていった。さらに3大学合同で、廃校を利用した夏学校などをサポート。子どもたちに集落の魅力を発見してもらう「探検ツアー」も行った。リーダーの田中裕喜さん(4年)は「今後も継続調査し、自分たちに何ができるか考えていきたい」と話している。

 
(写真)住民から廃校の利用状況を聞く学生たち
KeyWord 北海道プロジェクト
「現地主義と実体験」をテーマに、学科や専攻の枠をこえた教育・研究活動として文学部が実施。「アイヌ民族とチャシ」のほか、「炭鉱と地域社会」「地域社会と軍隊」「日高アイヌの起源」の4グループが活動を展開。採択終了後もそれぞれに研究が進んでいる。