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コラム

2015/04/01
文系・理系の枠にとらわれず、先生方の専門分野や活動から共通テーマについて考察。文理融合の精神が生きる東海大学の教育・研究を発信します
(Back Number掲載中)

「国際化を考える」①

政治経済学部経営学科 岩谷昌樹 教授

企業国際化の4つの条件
心地よい場所から機会の場所へ


企業の国際化は、主に次の4つを果たすことで実現される。1つ目は、3大市場である北アメリカ・ヨーロッパ・アジアに参入することである。たとえばディズニーランドはアメリカ、日本、フランス、香港の順に開園している。こうした「場所の拡大」を図るときは手順を間違えずに行わなければならない。ニーズが大きなところから参入することが求められる。つまりは「ビジネスを行うには、客がたくさん集まるところでせよ」ということである。

2つ目は、3大市場に向けた製品やサービスを作り出して販売することである。食品について見ると、マクドナルドのてりやきバーガー、コカ・コーラのジョージア、スターバックスのフラペチーノは、いずれも日本市場向けに開発された、「ご当地」ものである。

てりやきバーガーは日本の代表的な味であるしょうゆを取り入れたもの。ジョージアはアメリカではいれたてのコーヒーが好まれるが、日本では缶コーヒーの需要が高く、自動販売機やスーパー・コンビニという販売経路も豊富なことから開発され、商品名にはコカ・コーラ社の本社のある州の名前がつけられた。フラペチーノはスターバックスコーヒージャパンの女性社員のアイデアから生まれ、蒸し暑い日本の気候に登場する「お約束」となっている。これらの商品が物語るのは、他国の嗜好に合わせたモノの開発が欠かせないということである。

3つ目は、国籍にこだわらずに人材を活用するという、グローバル人事の促進だ。有名なところでは日産自動車や日本マクドナルドの社長は外国人である。インドのタタ・モーターズではドイツ人がトップに立っている。社員もまた、多国籍に採用することが国際経営の決め手となる。

昨今では楽天が社内共用語を英語にしており、ユニクロを展開するファーストリテイリングは積極的に外国人を採用している。こうした動きは「内なる国際化」といわれる。言語投資を進めて、社員が共通語(一般には英語)でコミュニケーションをできるようにすること。本社における意思決定のプロセスに、本国以外の国籍を持つ者が参加できるようにすることなどがそれである。ネスレに代表されるヨーロッパの企業は「内なる国際化」が進んでいる。一方で日本企業はこの点が未熟であると指摘されており、大きな課題となっている。

4つ目は、グローバルな視点でローカルに対応するという「グローカル(グローバル+ローカル)経営の実践」である。華々しくグローバルに展開するといっても、実際に活動するのは現地の工場であり、現地の店舗である。「土着化すること(ネイティブになること)」という国際経営の鉄則に従い、その土地に根づいていくという「断固たる決意」が必要である。

以上のような国際化への4つの条件を満たしていくことで、企業は「自国の慣れ親しんだゾーン」から「他国の慣れ親しんでいないゾーン」での活動を自在にできるようになる。言い換えると「心地よい場所」から「機会の場所」に移っていけるのである。道のりはとてつもなく厳しいが、得るものははてしなく大きい。それが企業の国際経営の歩む道である。

 
(写真)岩谷昌樹著 『ケースで学ぶ国際経営』(中央経済社)

いわたに・まさき 1973年岡山県生まれ。立命館大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。博士(経営学)。2003年東海大学に着任。著書に『トピックスから捉える国際ビジネス』(白桃書房)、『グローバル企業のデザインマネジメント』(学文社)など。顔写真提供=毎日新聞社。

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