特集:教育の現場から
2019年6月1日号
学生の“市民性”を養う
教員の専門を生かした授業で

昨年4月から始まった新カリキュラムでは、「パブリック・アチーブメント(PA)型教育」の全学的な浸透を目指し、必修科目として「発展教養科目」が開講されている。立ち上げから携わる現代教養センターの成川忠之所長と堀本麻由子准教授に1年間を振り返ってもらうとともに、今後に向けた展望を聞いた。

――新カリキュラムが始まって1年が経ちますが、あらためて導入の狙いと内容を教えてください。

成川 PA型教育とは、「学生に社会の構成員であるという自覚を促し、社会にかかわろうとする自発的な意識を醸成すること」を方針とする、本学独自の取り組みです。学生には4年間で社会の持続的な発展に取り組むための力を養ってほしいと考えています。具体的には昨年度から「発展教養科目」として「PA4科目」=表参照=を開講しており、授業は主に着任から2年目、あるいは3年目の先生方に担当してもらっています。

堀本 内容に関しては、「ここは押さえてほしい」というポイントをまとめたガイドブックを作成していますが、そこに至るプローチやテーマは先生方にお任せしています。自由な部分が多いので、最初は戸惑う先生も多かったようですが、専門分野に近づけて授業を展開することで、内容にも深みが出て、学生の授業アンケートでも高い評価を得ています。

成川 教員にとって、自身が取り組んでいる研究が社会の中でどのように役立つのかを説明することは大切です。新任の先生方にPA科目を担当していただくことは、そういう意味でも有効に働くのではないでしょうか。

――授業を組み立てるうえで、どのようなサポートをしているのでしょうか。
成川 教育支援センターが企画して毎年8月に実施している「新任教員フォローアップ研修」の中で、PA型教育の概要と趣旨を説明します。担当科目が決まった10月ごろから数回のワークショップを開き、各科目のより詳しい内容を説明するのはもちろん、大人数でのグループ演習がメーンとなるので、希望者には授業の進め方もレクチャーします。

堀本 各セメスターが終わったところで振り返りの時間も設けています。授業を通して浮き彫りになった課題や悩みをフィードバックしていただき、解決策を考えていきます。昨年度は1クラス80人前後の授業だったのですが、やはりそれでは難しいという声を受けて、今年度からは50人から60人程度に変更しました。先生方や学生の要望を取り入れながら、よりよい授業を一緒につくっていきたいと考えています。

地域の課題と向き合う発展系の授業も

――PA4科目とはどのような授業でしょうか。
堀本 「シティズンシップ」の授業では、思想信条や人種などが異なる人々が、互いの人権を尊重し合える社会をつくっていくにはどうしたらいいかを考えます。そうはいっても、「自分には社会を変える力はない」「無力だ」と考える学生は多いでしょう。ですから授業では、大学内での喫煙マナーやゴミの捨て方といった身近な問題から考えるようにしています。 

「ボランティア」の授業は名前だけ見ると「ボランティアをさせられる」と考えがちですが、そうではありません。阪神・淡路大震災を機に日本にその文化が根づいたという歴史や、自発的な意思が大事だといった概念を説明しています。

成川 学生にとってボランティアは「課せられるもの」というイメージがありますから、先生方にも「決して強制はしないでください」とお願いしています。中には懐疑的に捉えている学生もいますが、授業を通して「好きではないし、自分はやらないけれど、やっている人に対して偏見はなくなった」という意見がありました。こういった発想の転換が大切。学びの場としてボランティアを捉えてほしいのです。

堀本 「地域理解」と「国際理解」は、現代社会における地域や諸外国が抱える問題を知り、解決するための対策を考えます。とはいえひとことで「地域理解」と言っても、理系の先生はデータ解析から、体育系の先生はスポーツ振興の視点からアプローチするなど内容はさまざま。どの授業もグループワークを中心に展開しますから、出身地が異なる学生や留学生が意見を出し合うことで、自分にとっては当たり前だと思っていたことが国や地域によって異なることを知る。それが社会に出て、多様な人と協同する力を育成するきっかけにもなると思います。

――最後に、今後の展望をお聞かせください。
成川 PA4科目は主に1年生を対象としているので啓発的な内容にとどまってしまう部分もありますが、今年度から開講している「パブリック・スキル」や「パブリック・ワーク」では、地域やグローバルな課題を深く掘り下げ、リーダーシップやチームワーク、コミュニケーションの力を磨いてプロジェクトを立ち上げ、実際に解決に取り組みます。将来的にはチャレンジセンターのプロジェクトなどにも発展させたい。授業と課外活動をリンクさせて、市民性を養っていきます。

(写真上) 「グループ演習の中でファシリテーターを務めたり、少数派の意見に耳を傾けたりする経験は就職活動などにも生きるはず」と成川所長
(写真下) 堀本准教授は、「学生が主体的に活動できるよう、各学部や地域と連携しながら進めていきたい」と語る

 
担当教員の専門生かすPA4科目
昨年度から開講されているPA4科目は、どのような授業なのか? 編集部が各授業を突撃リポート!

シティズンシップ
医学部看護学科の矢口菜穂講師は、“助けて”と言える力を指す「受援力」をテーマに「シティズンシップ」の授業を進めてきた。「ボランティアなどの助ける側はイメージしやすいのですが、自分が“助けて”と求める側は意外と想像しにくい。地域包括ケアシステムなども説明し、学生たちには物事には助ける側と求める側というように双方の考え方が存在することを伝えてきました」と振り返る。
 
5月21日の授業では、「日常生活の困りごと」をテーマにグループ演習を行い、解決策を探った。「住みやすくて生活しやすいまちづくり」「外国人観光客が困るさまざまな問題」など、困っている側(課題)と助ける側(解決策)の双方の意見を模造紙にまとめた。矢口講師は、「授業の内容は自由に組み立てられる部分が多く、つくり上げていく面白さを感じています。普段接する看護学科の学生ではなく、他学部の学生に教えることで違う発見があり、私自身も勉強になっています」と語った。

ボランティア
スポーツ医科学研究所の加藤健志准教授が担当する「ボランティア」は、「自主性」や「無償性」といったボランティアの原則や実例を学ぶことから始まった。5月20日には学生が取り組みたい活動を検討。近い内容の学生がグループを組んで活動内容をまとめた。

リズミカルに進む授業は加藤准教授の“熱いエール”も飛び交い、学生たちの表情も明るい。グループワークや授業内容をまとめる「ミニッツペーパー」を記入する際、加藤准教授は、明確かつ短い制限時間を指示する。その間にも学生それぞれのもとに足を運び、「この考えはいいね! より具体的にしてみよう」「あと2分! しっかりまとめきろう」と大きな声で鼓舞する。加藤准教授は、「私は35年前から自然災害による被災地支援や貧困地域に向けたボランティア活動を続けています。その中で学んだ、自ら考え挑戦する喜びや、何かを成し遂げたときの達成感を学生にも感じてほしい。学生の個性を把握し、より意欲を高く持ってもらうためにもコミュニケーションは大切にしています」と熱く語っている。

地域理解

「子育て支援を通じた地域理解」を授業のテーマに掲げる文化社会学部アジア学科の今堀恵美講師。「子育ては地域のシステムと密接にかかわっており、多様な課題を抱えています。当たり前ですが、誰しもが子どもだった時代があり、上の世代に育てられた経験があります。将来は自分が子どもを持つ持たないにかかわらず、次世代を支える役割を担います。そういった身近なものから地域への理解、将来に役立つ知識を養ってほしい」と狙いを語る。
 
学生たちは序盤3回の授業で、座学を通して子育て支援の基礎を学んだ。4回目からはグループに分かれて東海大学のキャンパスがある平塚市、秦野市、渋谷区、港区、静岡市、伊勢原市、熊本市、札幌市の現状を探った。グループのメンバーは8人から9人と人数が多いが、リーダーや進行管理係、SNSで各授業のまとめを共有する「デジタル書記」など一人ひとりの役割を明確にすることで、学生が意欲的に取り組めるよう
工夫されている。5月23日には各地域での子育て支援策を発表した。

国際理解
教養学部国際学科の田辺圭一准教授が担当する「国際理解」の授業は、専門とする紛争や貧困をテーマに据えている。「『技術者を目指すから文系の勉強はしなくていい』と考える理系の学生もいるけれど、たとえばサイバーセキュリティーの分野では、文系に分類される法律の知識も必要です。文系理系という枠組みは大学までで、社会に出ればどんな仕事も“文理融合”になると説明すると、どの学部生も納得して取り組んでくれます」と語る。
 
5月21日の授業では、発展途上国における「児童労働」を取り上げ、十分な教育を受けられない子どもたちの実情や国連による支援の事例を紹介。ガーナのカカオ農園で働く子どもたちの映像を視聴した後、学生たちは4人一組で感想や今後の対策を話し合った。学生からは、「普段テレビで見るニュースは国内の話題が多いので、海外の問題としっかり向き合える貴重な機会」といった声が聞かれた。

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