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コラム

2017/04/01
文系・理系の枠にとらわれず、先生方の専門分野や活動から共通テーマについて考察。文理融合の精神が生きる東海大学の教育・研究を発信します
(Back Number掲載中)

「未来を考える」①

情報理工学部コンピュータ応用工学科 村松聡 講師

植物が意思を持つ!?
ロボットが導く新たな農業とは


皆さんはロボットと聞いて何を思い浮かべますか。ドラえもんのようなアニメキャラクターやHondaのASIMOのような2足歩行ロボットなど、さまざまなロボットを思い浮かべることができるでしょう。

アニメから産業分野まで幅広く活躍し、日本人となじみ深いロボット。日本における歴史は意外と古く、ロボットの始祖である「からくり」は日本書紀に記述があることか
ら、日本人はおおよそ1300年以上ロボットと付き合いがあります。一種の文化といえると同時に、日本においてロボットが私たちに近い分野で活動することは、ある意味で自然な流れなのです。

現代では、ロボットは工場など産業分野で活躍することで成功を収めていますが、政府が定めた新たな国家戦略では「医療・介護」「農業」「土木建築」など人間がする作業に近い分野でも、積極的にロボットを活用していくとしています。

今回は、これらの分野の中でもロボットと農業について触れていきましょう。農林水産省のデータによれば、国内ではカロリーベースでおおよそ39%しか食料を自給することができません。さらに、日本の農業は、後継者不足が顕著で、必然的にロボットの出番も増えていくことになります。

植物工場やロボットによる自動化は農業の新しい形として挙げられています。環境の温湿度や水分量といった情報をセンシングして制御することで、大量の作物を自動的に生産しようというものです。現在は、限られた作物がこのような仕組みで作られていますが、将来的には多種多様な作物を生産できるようになるでしょう。

私の研究室でもロボット技術を活用した農業を始めようと、いくつか新しい研究テーマを立ち上げており、その一つとして植物のロボット化を試行しています。植物は繁殖をはじめ、その生命活動を他者に依存することが多くあります。植物にとってはこれが進化の形なわけですが、動物のように「喉が渇けば水を飲みに」「寒ければ暖かいところへ」といった具合に自ら行動を起こすことができれば、植物工場のような大規模な設備がなくても、限られたスペースで有効かつ自動的に食物の生産ができるかもしれないと考えています。

このロボットは植物の状態を“体調”として計測できる各種センサと行動するための運動系で構成されており、その状態と認識した環境情報に応じて自律的に行動することができるのです。植物は意思を持っていないでしょうが、試作した植物ロボットが動いているところを見ると、あたかも自我を持っているようでなかなか興味深いものがあります。

学会で発表したところ、半分ネタ扱いされてしまったような突飛なアイデアです。しかし、私たちの身の回りで植物同士がコミュニケーションをとりながら自律的に行動して育っていく、新しい農業の形も面白いなと思っています。

 
(写真)植物の“体調”を計測して自律するロボット

むらまつ・さとし 1982年福島県生まれ。電気通信大学大学院情報システム研究科情報メディアシステム学専攻修了。博士(工学)。専門はロボット工学。IEEE、日本ロボット学会、計測自動制御学会に所属。人間と共存するロボットを目指して知能ロボットの研究に従事。

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