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コラム

2014/07/01
文系・理系の枠にとらわれず、先生方の専門分野や活動から共通テーマについて考察。文理融合の精神が生きる東海大学の教育・研究を発信します
(Back Number掲載中)

「住を語る」④

文学部歴史学科考古学専攻 秋田かな子 准教授

縄文時代の住まいに学ぶ
人と人との「間合い」を詰める


縄文時代の住居の代表格は、地面を掘りくぼめて床面を半地下に設ける竪穴住居である。掘り込みの形(円いか四角いか)や構造は時期や地域によって変化するが、約5000年前の関東・中部地方に最も安定して見られるのは、木造平屋円形ワンルームの物件である(バス・トイレはない)。

各地の遺跡公園などに行くと、上屋が復元されたかたちで屋外展示されており、中に入って見学することができる。直径6メートル程度の円形の住居であれば、床面積は約28平方メートル、そこに5人から6人が暮らす。入り口をくぐって中に降り立つとけっこう広く感じる。

重要な屋内施設として、まず火を焚く場である「炉」が挙げられる。床面の中心よりやや奥寄りに石や土器片で囲って設けられる。まれに男性器をかたどった「石棒」が配されることもある。照明・暖房・調理場の役割を果たし、作りつけであるため、時間帯によって空間利用の様が変わる1室制の住まい方あって、住空間を規定している。食事時には家族がおのおの決まった位置について炉を囲む場面が展開しただろう。住まいを象徴する施設である。

もう一つ重要なものに、入り口から床面を2分しながら奥壁に向かう「主軸」がある。直接目には見えないが「炉」や柱の配置を介して読みとることができ、建築原理とも住居を貫く観念とも捉えられている。「主軸」の発端である入り口には、「埋甕(うめがめ)」と呼ばれる土器が埋設されることが多い。乳児の埋葬施設である。幼くして亡くなった子どもが家族の一員として存在し続け、家族の意識もそこへ注がれ続けたことを示している。

一方、「主軸」の末端である奥壁部には祭壇が設けられる場合がある。このように、竪穴住居には当時の文化に根ざした、住まいへの感性が表されているのである。住居は、一義的には自然界から住むための空間を切り出す建物施設である。しかし、それだけにとどまらないことは、紹介した縄文時代の竪穴住居からもうかがえたことかと思う。

少々残念なことに、彼らは引っ越しの際にきれいに片づけを行うため、家財道具が遺されていることはほとんどない。先に広く感じると記したが、それはこのために加えて、今はそこに暮らした人々の姿がないことによる。それでも、確かに彼らはそこで睡眠や休息、食事をとり、手仕事をし、育児や教育を行っていたのだ。そしてそこは、ほの暗く居心地のよい安心できる空間であり、家族一人ひとりにとって暮らしのよりどころであったに違いない。

現在の住宅においても、前記の機能はおよそ備わっていよう。異なる点は、一緒に暮らす人と人の間合いではないだろうか。「家庭のあり方」ということが何か社会的テーマとして取り沙汰されているとすれば、竪穴住居のような空間を設けて間合いを詰める、というのは効果的だろうか、などと復元家屋の炉に手をかざしながら考えてみたりするのである。

 
(写真)国指定史跡・勝坂遺跡。土葺きの復元家屋(縄文時代中期)

あきた・かなこ 1961年福岡県生まれ。東海大学文学部卒業。専門は縄文時代の考古学。日本考古学協会などに所属。主要論文に「加曽利B式土器」(『総覧縄文土器』/アム・プロモーション)、「注口土器と注口付土器」(『縄文時代の考古学Ⅶ』/同成社)など。

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