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コラム

2014/05/01
文系・理系の枠にとらわれず、先生方の専門分野や活動から共通テーマについて考察。文理融合の精神が生きる東海大学の教育・研究を発信します
(Back Number掲載中)

「住を語る」②

教養学部人間環境学科社会環境課程 高木俊之 准教授

都市の高齢者とバリアフリー
エレベーターの社会経済的な効果


これからの日本は、高齢化がさらに進んでいくことは避けられないことでしょう。もう一つ注意すべきことは、東京圏を中心とする都市への人口集中が進んでいることです。すると、都市における高齢者の住まいのあり方が今後の重要な課題となります。その分析視角として、移動の際の段差、階段、狭い入り口といった障壁が取り除かれた状態を意味する「バリアフリー」が重要であることは、いうまでもありません。

まず、都市におけるバリアフリーの実現について考えてみましょう。法制度として「ハートビル法」と「交通バリアフリー法」が統合・拡充された「バリアフリー新法」※が2006年に施行されました。それによって、多数の人が利用する建築物のエレベータや、駅や空港に代表される旅客施設におけるバリアフリー化はだいぶ整備が進みました。

では、一般家庭ではどうでしょうか。ここに厚生労働省の『人口動態統計』のデータを紹介します。そこには「階段及びステップからの転落およびその上での転倒」による死亡数の統計があります。11年には、全国で524人がこの原因によって、家庭で亡くなっています。そのうち65歳以上の方は424人です。すると階段などからの転落・転倒が原因で亡くなった人のうち、高齢者の占める割合は約81%になります。言い換えれば、お年寄りにとっては、家の階段やステップはかなり危険ということになります。10年前の01年に、同じ理由で亡くなった65 歳以上の方は300人だったことから、危険は減っていないと考えられます。

こうした痛ましい事故を少しでも減らすためには、家庭の階段をバリアフリーにする方法としてホームエレベーターを設置することが、改善の一つであると考えます。そこで、エレベーターについて高木研究室で調査した報告書『エレベータ産業と中小企業』から、内容の一部を紹介します。

ホームエレベーターを含むエレベーターの生産台数を経済産業省の『機械統計年報』で調べると、最盛期の1997年には5万台以上生産されていたものが、09年には3万台程度にまで減っています。このバリアフリーへの期待と反する動きは、景気の低迷によるオフィスビル建設の頭打ちによるものです。そのうち、家庭のバリアフリー化のために今後の需要が期待されるホームエレベーターの生産台数は、メーカーからの聞き取りによると4~5000台にすぎません。他方で、都市のインフラ整備が進む中国では、年間36万台もが製造されているといわれ、こんなところにも日本経済の現状が表れています。
 

最後に、エレベーターの意外な効果について述べましょう。ある試算によると、仮に日本国内の建物が、すべて2階建て以下だった場合、現在の床面積を確保するためには国土の10%の緑地を削らなければならないといわれます(寺園成宏・松倉欣孝編『エレベータハイテク技術』オーム社)。つまり、エレベーターはバリアフリーを実現するだけでなく、高層住宅化を可能にし、緑地を守るためにも役立っているのです。その社会的効果は、もっと関心を集めてもよいものなのです。

※バリアフリー新法=公共空間において高齢者、障害者等が円滑な移動や施設利用の確保をするための施策を、総合的に実現させるための法律。

 
(写真)高木ゼミの学生と、静岡県でエレベーターを製造している企業を訪れ、工場内を見学

たかぎ・としゆき 東京都生まれ。法政大学大学院社会学専攻修士課程修了。専修大学大学院社会学専攻博士課程単位取得退学、修士(社会学)。専門は都市・地域の社会学。編著に『エレベータ産業と中小企業』(下田出版)、『ホームレスの人々と自立への途』(下田出版)。

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