コラム
2022/06/01政治経済学部経済学科 田村輝之 准教授
5月に入り、日本政府は「屋外では、周りの人との距離が確保できない場合でも、会話をほとんどしない場合には、マスク着用の必要はない」とし、さらに屋内で会話をする場合でも、十分な換気などの対策を講じていれば「マスクを外すこともできる」との方針を示した(参考データ=NHK公式HP)。
今後の日本人のマスクとの付き合い方を考えるうえで、とても興味深い研究がある。同志社大学心理学部の中谷内教授研究グループでは、日本人のコロナ禍におけるマスク着用は、自身や他者の感染防止という理由よりも、ほかの着用者を見て、それに同調しようとする「同調行動」のためという結果を明らかにした(参考データ=同志社大学HP)。
また、学術的な研究ではないものの、人々の行動を促す際に、国民性を表した言い回しがある。ドイツ人に対しては「これは規則です」、アメリカ人には「これをすればヒーローになれます」、日本人には「みんなやっています」と伝えるのがよいというのである。
前述のように、日本でも諸外国と同様に、マスク着用が緩和されたわけであるが、「マスク依存症」という言葉も使われ始めている。これは、どんな場面であっても、素顔を出さずに常にマスクをしている状態である。筆者も教員として、学生と集合写真等を撮る際に、「マスクを外したくない」という学生を多々目の当たりにしたことがある。これまで2年間の学生生活をマスク姿で過ごし、今さら同級生に素顔を見せるのは恥ずかしくて耐えられないという学生もいる。
我々にもマスク着用のメリットはある。少しの外出であれば、何も準備せずにマスクをパッと着用し、そして「何者でもない何か」に扮して、気楽に外出ができるということを、皆さんも経験されたことがあるのではないだろうか。これらの心理と日本人の同調行動も相まって、全員がマスクを外すという状態には、もう少し時間がかかるのかもしれない。
たむら・てるゆき。上智大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。専門は、行動経済学、実験経済学など。
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