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学生

2011/12/01

WSC2連覇 最高の舞台で学んだもの

世界最大級のソーラーカーレースに挑む
赤土のアウトバック(荒野)を、太陽光だけを頼りに青いソーラーカーが駆け抜ける―。10月16日から23日まで、オーストラリアで開催されたワールド・ソーラー・チャレンジ(WSC)で、東海大学チャレンジセンター「ライトパワープロジェクト」のソーラーカーチームが大会2連覇を達成した。世界最高峰の舞台で戦った学生たちが得たものとは。

「プレッシャーもあるけれど、出るからには優勝を狙うしかない」。学生たちは強い意気込みで大会に挑んだ。チームは、木村英樹監督(工学部教授)と学生リーダーの瀧淳一さん(工学部3年)をはじめ、学生スタッフが19人、特別アドバイザーに東海大卒業生でラリードライバーの篠塚建次郎さんら社会人が参加した総勢25人で構成された。

ダーウィン入りしてからもマシンの整備はもとより、伴走車の準備、レース期間中のキャンプへの備えなど寝る間も惜しんで作業に没頭してきた。「これまでの経験もあり、前回より順調に進められた」。レース開始前夜、瀧さんは大会への手応えを語った。

レース中は大規模なブッシュファイヤー(野火)による大会史上初の中断や、竜巻、砂嵐といった気象条件にも負けずトップを快走。オランダの強豪、デルフト工科大学のNuon Solar Teamやアメリカのミシガン大学とのデッドヒートを制し、世界一の座を再び手中にした(レース展開は「奮戦記」を参照)。

「他チームのレース運びからも、東海大チームが発電効率で上回っていたことは間違いない。参加チームの中で唯一、日本製のHIT太陽光発電パネルを使用できたことが大きい」と木村監督は分析する。

2年前の前回大会を圧倒的な強さで制した東海大チームは、大会レギュレーションの変更により、マシンを新造して今大会へと挑むことに。パナソニックや東レなど多数の企業から最先端技術の提供を受け、学生たちの手でマシンを作り上げてきた。

「優勝は日本国内だけでなく、世界規模で技術力を結集できた成果。学生たちの努力も大きかった。多くの方の協力に感謝したい」と木村監督は充実した表情で語る。



次を見据える学生たち 課題克服し世界一守る

学生たちは成果を喜びながらも、課題を感じているという。「優勝はできたけれど、チーム全員の情報共有など、課題はたくさんあります。マシンの整備でもNuonのスタッフたちに動きでは負けていた。ソフト、ハード両面で改善していかなくては世界一は維持できない」と話すのは今大会が国際大会初出場の岡田一輝さん(情報理工学部1年)。同じく1年生の橋本真希さん(工学部)は、「中心になったのは前回大会経験者の先輩たち。圧倒されてばかりでしたが、自分から行動を起こせるようにならなければ」と“次”を見据える。

すでに08年、10年に優勝した南アフリカで開催される「サウス・アフリカ・ソーラー・チャレンジ」から、来年度の出場オファーが届いている。「これまで大会出場を続ける中で、チームワークとスケジュール管理がいかに重要かということを思い知ってきた」と関川陽さん(工学部3年)は話す。「学生の技術レベルもまだまだ低い。本当の意味で“学生チーム”として勝つために、やらなければならないことはまだまだあります」

PickUp
サウジアラビアの留学生、チームに欠かせない一員に
今年3月、東海大学がサウジアラビアの大学と共同研究に関する業務契約を結んだことをきっかけに、現地で先代のTokai Challenger を紹介した。その縁で今回、チームに参加したのが、同国から東海大に留学中のアルモワッライ・アナスさん(工学部3年)、アルタルヒ・ナイフさん(同)、アハマド・マンシーさん(同)の3人だ。

当初は「途中から参加したので……」と遠慮気味だったが、レース期間中はアラビア語と日本語に加え、英語やフランス語など堪能な語学力で通訳を引き受け、外国メディアにも対応。偵察車の運転やキャンプ地での食事当番もこなした。

「日本人の学生たちは夜遅くまで一生懸命作業して頑張っている。自分たちも貢献したかった」とマンシーさん。彼らは、レースを終えるころにはチームにとって欠かせない存在になっていった。

「皆と仲良くなれたし、本当に貴重な経験を積むことができた」とナイフさん。アナスさんは「地球環境の保全や資源の枯渇といった問題から、母国でも再生可能エネルギーに大きな注目が集まっています。今後も太陽光発電技術について学んでいきたい」と話している。

オーストラリア縦断3021キロ東海大チーム奮戦記
■10月16日 ダーウィン~キャサリン~ダンマラ~716キロ地点
スタート直後に、トラブルで停車中だった予選1位のトゥエンテ大学(オランダ)を抜くと、デルフト工科大学のNuon Solar Team(同)、ミシガン大学(アメリカ)と抜きつ抜かれつの展開に。キャンプ地ではNuonと同宿となる。
■10月18日 ウォーカップ〜ティーツリー~アリススプリングス~カルゲラ~1825.5キロ地点
火事が鎮静化し無事にレース再開。消えきらずに道路脇に炎が迫ることもあったが、順調なドライブでコントロールポイントを通過していく。ほぼ中間地点となるアリススプリングスを越え、レースは後半戦に。アリススプリングス前後で竜巻や砂嵐など次々と不利な条件が続くが、追い風を受けて距離を延ばしノーザンテリトリーから南オーストラリア州へと入る。カルゲラでのNuonとの差は35分と、着実にリードを広げる。
■10月20日 2561キロ地点~ポートオーガスタ~フィニッシュ計測点(2998キロ)~アデレード
後ろに迫るNuonを意識したレース運びも、東海大が時速約100キロで走行したのに対し、昨日の追い上げが響くNuonは時速約80から85キロ程度を推移。どんどんと差を広げ、ポートオーガスタでは26分差に。このあたりから予想通り雲が広がり発電量が落ちるも、それまでの適切なエネルギーマネジメントの成果で順調に走行。午後1時過ぎ、アデレード郊外に設けられた実質的なレース終了地点となるフィニッシュ計測点(2998キロ)
に一番乗りを果たす。その後は小雨の降る中、マシンとチームはアデレード市内を堂々と行進し、セレモニーゴールとなる市内中心部のヴィクトリアスクウェアにゴール。
■10月10~15日 ダーウィン
整備スペースとして提供を受けたトヨタ自動車現地法人の「トヨタ・ダーウィン・ブランチ」で準備に取り組む。マシンはもとより、伴走する指令車などの整備も同時進行。13日に公式車検を受け、15日には同市内のヒドゥン・バレー・サーキットで行われた予選で、2分7秒07を記録し5位に入る。
■10月17日 716キロ地点~テナントクリーク~ウォーカップ(1100キロ地点)
前日、ほぼ同地点でフィニッシュした3チームのデッドヒートが続く。強い横風に悩まされながらも平均速度をキープ。徐々に2チームとの差を広げる。次のコントロールポイントであるバロウクリークを目指す途中、主催者から大規模なブッシュファイヤ―(野火)が発生しているとの連絡が入る。その後、1100キロ地点のウォーカップという街でコースが通行止めに。レースは大会史上初の途中中断となり、同地点で3チームが宿泊。
■10月19日 1825.5キロ地点~クッバーピディ〜グレンダンボ~2561キロ地点
ゴールを見据えてエネルギー消費を抑える戦略を取るも、昨日に続き強い追い風を受けて加速。熊本の東海大学宇宙情報センター、東京の東海大学情報技術センターなどの協力を得て、衛星回線で送られてくる気象観測衛星の画像データを活用し、雲の位置や今後の推移を予測しながら巡航速度の微調整を繰り返す。その間、Nuonが猛然と追い上げ、この日のフィニッシュとなった2561キロ地点では、24キロ後方(時速90キロで走行したとして約16分差)まで迫る。
■10月21~24日 アデレード
メンバーたちは次々とゴールする後続チームをヴィクトリアスクウェアで出迎え、噴水パーティーで健闘をたたえ合う。同地点にはゴールした各チームのマシンが展示され、優勝した東海大のTokai Challengerが来場者の注目を集めた。23日の表彰式では大会前に返還した太陽と地球をかたどったトロフィーを再び手中にした。運送を担当する一部のメンバーは24日にアデレードを発ち、メルボルンへ移動。マシンなどを船便に託して帰国した。



 
(写真上から)
▼奇岩・デビルズマーブルの前を通過するTokai Challenger。レースはオーストラリア大陸のほぼ中央を貫くスチュアートハイウェイが舞台だ
▼コントロールポイントでの充電がレースの命運を分ける
▼多くの市民が出迎える中、堂々とゴールするメンバーたち
▼日本へと凱旋帰国したソーラーカーチームは10月31日、東海大学校友会館で報道関係者などを対象とした優勝報告会を開催した
▼左からナイフさん、アナスさん、マンシーさん
KeyWord ワールド・ソーラー・チャレンジ
オーストラリアのダーウィンからアデレードまで3021キロの走行タイムを競う。1987年に始まり、25年の歴史をもつ。今大会には各国の大学などから37チームが参戦。2009年の前回大会で東海大学は、デルフト工科大学などを抑え、2位に大差をつけて優勝した。

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