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コラム

2021/11/01
政治、経済、国際関係、医療・福祉、スポーツ、エンターテインメントなど、さまざまなジャンルのニュースや話題の出来事を東海大学の先生方が解説します。

Q.総裁選や衆院選……そもそも自民党の政治とは?

A.日本的土着性が生んだ政党
学生も『一票』で意見を主張しよう


政治経済学部政治学科 末延吉正 教授

今年9月、就任から1年余りで菅義偉内閣総理大臣が辞職を表明し、その後継を争う自民党の総裁選が多くの関心を集めました。総裁を決める与党の選挙はイコール国政を率いる総理大臣を決定する選挙となるのです。

そもそも、日本の政界は第二次世界大戦の敗戦後、アメリカを中心とした自由主義を掲げる国々の意向に沿って形づくられてきました。当時、ソビエト連邦や中国など勢力を拡大していた共産主義との東西冷戦に突入しており、中国や北朝鮮に近い日本は、地政学的に反共、自由主義のとりでとせねばならず、この考えに寄り添う政党が必要だったのです。

その考えのもと、1955年に、戦前の二大政党の中心だった政友会の流れをくむ保守勢力が自由党と日本民主党の保守合同によって自由民主党(自民党)を結成しました。一方、右派と左派に分裂していた日本社会党もこの年に再統一されており、保守・革新のそれぞれに大政党が誕生し、いわゆる55年体制が確立されました。

その後、60年の岸信介政権による日米安保条約改定をめぐる国内の混乱や大衆(学生)運動など、“政治の季節”を経て、池田勇人、佐藤栄作ら歴代の総理総裁は、かつて吉田茂首相が戦後復興に掲げた「軽武装経済重点主義」……アメリカ基軸、軍隊に予算をかけず、経済発展を遂げるという保守本流の考えのもとで、高度経済成長を遂げていきました。70年代後半から80年代にかけては、経済発展、バブル景気の隆盛に加え、欧州では東西ドイツ統一やソ連崩壊による東西冷戦の終結などで人々の政治への関心が高まりましたが、日本には政治の季節は訪れませんでした。

その間も、その後も与党・自民党による政治は連綿と続いています。それは、この政党がきわめて日本社会的な土着性を持っているからです。ムラの集まりのように協議・話し合い(談合)を重視し、白黒をはっきりとつけない、日本人の民族性や悪しき平等意識(嫉妬)が生んだ日本特有の政党なのです。離合集散を繰り返す野党の体たらくもありますが、いい面も悪い面も含んだ「日本的最大公約数政党」であるからこそ選挙に勝ち続けてきたといえるでしょう。

さて、現代社会はIT技術の進化や5Gに代表される高速通信網の整備が進み、世界基準になり得る新しい技術を創り出さなくては取り残されてしまう時代となりました。また、サイバーセキュリティーなど“新しい国防”技術の開発も喫緊の課題です。そのような状況下の日本に誕生したのが、岸田文雄氏による新たな政権です。本紙が発行されるころには政権を選択する衆議院選挙の結果は出ていますが、今後ははたして岸田政権にそれが可能かどうか見極めていく必要があるでしょう。

来年夏には参議院選挙も控えています。新型コロナ禍や経済不況などへの対策がおろそかになれば人々の日々の不満はさらに鬱積し、投票行動も変化します。さらに、大学生ら若い世代が政治に関心を持ち、投票率が6割台後半まで向上すれば、やはり社会の変革は起きるでしょう。

フェイクニュースにだまされず、オリジナル情報をつかみ、バイアスのかかった報道を見極めてください。投票は自らの意見を主張するまたとない機会。あなたの『一票』は確実に社会を進歩させます。

 

すえのぶ・よしまさ 1954年山口県生まれ。早稲田大学社会科学部卒業。慶應義塾大学大学院法学研究科前期博士課程修了。テレビ朝日社会部記者、政治部記者、ニューヨーク特派員(国際遊軍)、バンコク支局長兼プノンペン臨時支局長、政治部長などを歴任。中央大学特任教授などを経て、2015年に東海大学教授に着任。東海大学平和戦略国際研究所所長。

(写真)末延教授は10月20日に、熊本校舎で講演。「2021夏~秋 コロナ禍の日本が変わる!! 総選挙『一票』で変える民主主義の価値を考える」と題し、新型コロナ禍や、今年9月の自民党総裁選から衆議院選挙まで政治をめぐる社会が激動する中で、ジャーナリストとして取材した報道の舞台裏や政治家のエピソードなどを熱弁し、学生や教職員ら約70人が聴講した