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コラム

2012/02/01
文系・理系の枠にとらわれず、先生方の専門分野や活動から共通テーマについて考察。文理融合の精神が生きる東海大学の教育・研究を発信します
(Back Number掲載中)

「震災・防災を考える」⑥

工学部光・画像工学科 前田秀一 教授
電子ペーパーの新たな活用法を探る
震災時の被害軽減をソフト面からサポート


「想定外の……」「千年に一度の……」。昨年3月11日の東日本大震災以来、何度も聞く言葉です。この言葉は、千年に一度の大津波にも耐えられる堤防を造らなければならない、といった議論にもつながります。しかし、コンクリートの寿命は30~50年と聞きます。千年の間に、20回以上も堤防を造り直すのでしょうか。堤防は、確かに人命や財産を守るために重要な技術ですが、前述のように限界があります。堤防をはじめとする建設物にかかわるハード技術には限界があることを我々に再認識させたのが、3・11の震災なのではないでしょうか。

ハードに限界があるならソフト技術はどうでしょうか。ここでのソフト技術は、震災時に人々に危機の規模に関する情報、避難すべき場所などを的確に素早く伝える技術と考えます。産業革命以来、人類の技術の進歩は、エントロピーを増大させる方向、つまりエネルギーの大量消費に向かってきました。インターネットに代表されるIT技術は、エントロピーを減少させる方向、つまり省エネに向かう力を持っています。震災時の情報伝達ツールとしてのソフト技術には、堤防に代表されるハード技術のような物理的な限界はありません。性能を向上させるために、工事が大変になるといったようなことはないのです。

さて、光・画像工学科に身を置く研究者としては、このソフト技術で震災時の被害軽減に貢献できたらと考えております。具体的には、電子ペーパーを震災用途に展開しようと研究を進めています。電子ペーパーは、その優れた視認性(紙への印刷物のような見やすさ)から、現在は主に電子書籍端末に応用されています。一方で、表示の切り替え時以外は電源を必要としないメモリー性といわれる特長も有しています。このメモリー性は省エネに直結します。また、電子ペーパーの基本構成は単純で、液晶ディスプレイのようにバックライトなどを必要としません。基本的に低コストで作れ、かつ頑丈です。こうしたことから、災害時など電源を十分に確保できない状況下で、厳しい外部環境に耐えなければならない屋外用の電子掲示看板(デジタルサイネージ)に適していると考えたわけです。

この用途への実用化のハードルとなるのが、100Vという電子ペーパーの非常に高い駆動電圧です。この駆動電圧を太陽電池や乾電池の起電力である10V以下まで小さくすることを目標に、現在、表示用の材料開発に取り組んでいます。これまでモデル実験を繰り返し、駆動電圧の大幅な減少に効果的な材料を数種見出しています。これらを用いて、電子ペーパーを屋外用デジタルサイネージに応用し、ソフト面から減災に少しでも貢献したいと思っています。

 
(写真)電子ペーパー技術を使ったデジタルサイネージ

まえだ・しゅういち 1963年東京都生まれ。慶應義塾大学大学院理工学研究科応用化学専攻(修士課程)修了、英国サセックス大学分子科学専攻(博士課程)修了。専門は画像形成材料。日本画像学会、高分子学会などに所属。著書に『適用事例にみる高分子材料の最先端技術』など。

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