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コラム

2010/04/01
文系・理系の枠にとらわれず、先生方の専門分野や活動から共通テーマについて考察。文理融合の精神が生きる東海大学の教育・研究を発信します
(Back Number掲載中)

「環境問題を語る」①

教養学部人間環境学科 藤田成吉教授

「地球のためならず」の精神で
生態系サービスの劣化にも目を向けよ


このところの、エコエコという風潮は好きになれない。「地球にやさしい」という言い方も鼻について気持ちが悪い。また、硬派のエコロジストからは「地球に生かされているのは私たちのほうなのに、人間のおごり以外の何ものでもない」と厳しい意見もないではない。ブームの陰に辛口の言辞はつきものである。ではこの「地球にやさしい」というフレーズを、どうとらえたら良いものか。

「情けは人のためならず」という諺がある。近ごろでは「甘やかすとかえって本人のためにならない」と解釈する人も多いようだが、もともとの意味するところは「困っている人にかけた情け(やさしさ)は巡り巡って自分が困ったときに戻ってくる、つまり自分のため」。生態学でいう相利共生とか文化人類学の互酬性(レシプロシティ)などに類した、共生社会の心得を説いたもの。今、地球の環境も資源も間違いなく劣化が進んでいる。「地球にやさしい」も「地球のためならず」と解してはどうだろう。言うまでもないが、甘やかさずにどんどん開発し収奪するのではなく、巡り巡って私たちのためである。

ところで、「生態系サービス」という概念が注目されている。国連の主唱による「ミレニアム生態系評価報告書」(2005年)が分かりやすく、食料や木材などの「供給サービス」、気候や洪水などを緩和する「調整サービス」、精神面やレクリエーションなどの「文化的サービス」、土壌の形成や水循環などの「基盤サービス」の4つに分類している。また、生物多様性をこれらのサービスの源として位置づけている。

では、サービスの源の源は何か。緑色植物と光合成細菌である。例えば酸素が多く二酸化炭素の少ない大気をつくり、オゾン層をつくって生物の陸上進出を可能にした。生物の営みから見れば植物が生産者であり、動物が消費者、微生物が分解者である。考えてみれば、石油もおおよそ1億5千万年前から数千万年間に光合成生物によってつくられた生態系サービス。この膨大な量の缶ジュースも先進国が20世紀の百年でほぼ半分を飲み、新興国も加わってあと50年で飲み干そうとしている。経済成長による大量生産も結構だが、人間が生物である限り生態系に従属した消費者であることを忘れるわけにはいかない。先の報告書によれば生態系サービスの状態は、多くの分野で機能が減少している。また、種の絶滅が自然のプロセスで生じるそれの100~1000倍のスピードで進んでいると指摘している。

今年10月には第10回生物多様性条約締約国会議(COP10)が名古屋市で開催される。これを機会にさまざまな地球環境問題と関連し合う「生態系サービス」の劣化にも目を向け、「地球のためならず」のココロで生物多様性の保全と賢明な利用(Wise-Use)に取り組んでいきたいものである。

 
ふじた・せいきち 1944年中国瀋陽生まれ。同志社大学経済学部卒。環境事業団審議役、東京学芸大学非常勤講師、信州大学特任講師などを経て2006年4月から現職。著書『環境キーワードの冒険』(日報)、『持続可能な社会のための環境学習』(培風館、共著)など。

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