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コラム

2020/10/01
政治、経済、国際関係、医療・福祉、スポーツ、エンターテインメントなど、さまざまなジャンルのニュースや話題の出来事を東海大学の先生方が解説します。

Q.「Go To トラベル」の問題点は?

A.タイミングと内容の詰めが甘く、効果は期待薄

観光学部観光学科 藤本祐司 教授

「Go Toトラベル」は、宿泊料金の割引や旅先で使えるクーポン券などで旅行代金の半額(最大1人2万円分/1泊)を国が支援する観光需要喚起策です。7月22日から35%の旅行代金割引が始まり、10月1日には15%分の地域クーポンの発行も開始されます。また、事業開始当初は除外されていた東京発着の旅行も10月1日からは適用対象となります。

「イート」「イベント」「商店街」と合わせて「Go Toキャンペーン」と称される事業には1兆6794億円の関連予算が投じられています。観光産業は裾野が広いため、不振に陥ると農林漁業やその他のサービス業にも影響が及びます。消費者の過度な自粛は日本経済全体を落ち込ませてしまう可能性があります。
 
とはいえ、この予算措置には若干の疑問を感じています。人の行き来を増やすため、当然感染を広げるリスクがあります。短期的に観光業界を助けても、新型コロナを蔓延させてしまえば、中長期的には観光業界をさらなる苦境に立たせることになってしまう恐れもあります。

政府がまず予算を使うべき対象は、感染拡大を防ぐために努力を続けている医療従事者でしょうし、コロナ禍の発生源を絶つことが先決です。観光業界に対しては、企業を直接援助する雇用調整助成金の手続きを簡素化し助成金を増額する方法もあります。どんなによい政策でも、繰り出す政策の順序を間違え、タイミングを誤れば愚策になってしまいます。
 
導入当初からGo Toトラベルは制度設計の甘さが目立ち、やや拙速の感が否めません。参加する旅行業者の大半が大手企業で、本当に困っている中小企業には手が差し伸べられていない。Go Toトラベル事業がお得であればあるほど比較的高額な旅館やホテルに予約が偏ってしまうことは、想像力を少し働かせれば簡単にわかることです。
 
当初、感染者が急増していた東京発着の旅行を除外したことも、マーケット規模を大きく狭めてしまいました。日本の人口の10分の1を占める東京都を除外することは税の受益と負担の不一致から不公平感も生まれます。税金の使い方としても疑問が残ります。
 
このコロナ禍では、観光業界もかねてから懸念されていた「脆弱さ」を露呈しました。近年、国内の旅館やホテル、観光地は外国人観光客を呼び込む「インバウンド」に力を注いできました。国内の観光客をリピーターとして呼び込む工夫をせず、もっぱら増え続ける外国人観光客に頼ることで、業界内での健全な競争を行ってこなかったのです。
 
だからこそ、これからの観光業界に必要なのは、業界内競争の中で身につく企業の「体力」です。そのためには合併や他業種・行政とのさらなる連携が必要。リーマン・ショックや東日本大震災の後も観光業は立ち直ってきました。時間はかかりますが、今回のコロナショックからも立ち直れると信じています。観光業界が自ら変革していくことはもちろんですが、政府にはそれを後押しする政策こそが求められているのではないでしょうか。

 

ふじもと・ゆうじ 静岡県生まれ。早稲田大学法学部卒業、米国ミシガン州立大学コミュニケーション学科修士課程修了、早稲田大社会科学研究科博士後期課程満期退学。(株式会社)三和総合研究所(現・三菱UFJリサーチ&コンサルティング㈱)、参議院議員を経て2016年に東海大学に着任。参議院議員時代には「観光立国推進基本法」の立案を担当したほか、観光庁を担当する国土交通大臣政務官等を務める。現在、観光学部長を務めている。