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コラム

2014/09/01
文系・理系の枠にとらわれず、先生方の専門分野や活動から共通テーマについて考察。文理融合の精神が生きる東海大学の教育・研究を発信します
(Back Number掲載中)

「住を語る」⑥

熊本教養教育センター 伊藤是清 准教授

住まいと暮らしを支える
古代から進化を続けるコンクリート


コンクリートは今日、多くの建築物や土木構造物に使われ、私たちの暮らしを支えています。現代ではコンクリートを使っていない建築物はないといっていいほどです。では、身近にあるコンクリートのことを皆さんはどの程度ご存じでしょうか。そこで今回は、知っているようで意外と知らないコンクリートについてお話ししたいと思います。

コンクリートは、水、セメント、細骨材(砂など)、粗骨材(砂利など)を基本要素とし、セメントと水を混ぜたものを結合材として骨材を結合して固めた複合材料です。ちなみにコンクリートから粗骨材を除いたものがモルタルで、壁などの仕上げ材料として使われます。これらのほかにコンクリートの品質を改善したり、新たな性質を与えたりする目的で混和材料が用いられます。界面活性剤などの分散剤をはじめ、石炭火力発電所から排出される灰や製鉄所から排出されるスラグといった産業副産物も有効活用されています。また、セメントなどの各構成材料にも目的に応じて多くの種類があります。

工場で製造されたばかりのコンクリートはやわらかく、時間が経つにつれて石のように硬くなります。これは水とセメントの化学反応(水和反応)によるものです。したがって、柱などの構造材料として使えるようになるまでにはある程度の時間がかかります。通常のコンクリートは一人前に成長するまでに一カ月程度かかります。その間、赤ちゃんを育てるように水分などをきちんと管理しないと強度や耐久性が不足したコンクリートになってしまいます。

近代建築の三大材料としてコンクリートと鋼とガラスが挙げられますが、人類はコンクリートを古くから使っていたようです。一説によると9000年前の新石器時代までさかのぼるといわれています。イスラエルの遺跡で発掘された住居跡の床にコンクリートが使われていました。古代ローマ時代には石灰に火山灰を混ぜたものをセメントとしたコンクリートが造られていました。その代表的な構造物に2000年近くの時を経て現存するパンテオンがあります。ただし、これらのコンクリートは〝現代のコンクリート〞と比べると主としてセメントの成分や製造方法が異なっており、〝古代コンクリート〞などと呼ばれています。現代のコンクリート技術は18世紀後半から19世紀前半にイギリスで考案された新しい形のセメントから始まっています。

現在、用途に応じたさまざまなコンクリートが研究開発されています。その一つに超高強度コンクリートがあります。最近では日本において圧縮強度が200ニュートン/平方ミリメートルクラス(1平方センチあたり約2トンの荷重を支えることができる)のものが開発され、超高層住宅などに使われています。また、宇宙開発分野では月面基地の材料(ルナコンクリート)としても注目されています。コンクリートは古くから存在していますが、一方で日々進化している先端材料でもあるのです。

 
(写真)2世紀前半に建設されたパンテオン(ローマ)の内部(写真提供=渡邊道治産業工学部教授)

いとう・これきよ 1972年長崎県生まれ。九州東海大学工学部建築学科卒業。九州大学大学院人間環境学研究科空間システム専攻博士後期課程単位取得退学。博士(工学)。専門は建築材料・施工学。日本建築学会、日本コンクリート工学会などに所属。

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