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コラム

2011/10/01
東海大学の先生方が、教育・研究活動などを通して学生と接する中で感じたことをつづったリレーコラム(Back Number掲載中)

人とのつながりを大切に

工学部材料科学科 宮澤靖幸 教授

私の研究室では、ものづくりの基盤を支える材料の接合を研究しています。モノとモノとの接合を意味する「ろう付」が研究題材なのですが、研究室を人と人とのつながりの大切さを学び取る場にすることも心がけています。私は、人々が互いのつながりをもう少し意識すれば、もっと良い世の中が実現できると考えています。そのために、なるべく学生と同じ目線で話をするよう心がけています。ところがこれが難しい。そこで、日ごろの学生指導で心がけていることを書きつづっていきたいと思います。

教育の場では、教員と学生がお互いに尊敬と感謝の気持ちを持つことが大切です。そのため、私は意識して「ごくろうさま」「ありがとう」と言葉に出すようにしています。何気ない一言ですが、良い人間関係を作るきっかけになっていると考えています。

学生は実に教員をよく見ています。特に研究指導教員の行動は、学生に及ぼす影響も大きいようです。言葉は大切ですが、言葉だけでは学生は成長しません。子が親の背中を見て育つように、教員の行動が学生を育んでいます。そのことを忘れず、常に自分の行動に自覚と自信を持つように努力しています。

私の専門である「ろう付」では、金属同士を接合する過程で、のりの役割を果たす金属「ろう材」を間に挿入します。くっ付ける際、ろう材自身は変化しますが、金属同士はなるべく変化させないという特徴を持っています。あるとき、これは人間関係や組織にも通じると考えるようになりました。実は、私はよく人から頼まれごとをします。最初のうちは、雑用が増えるだけで自分自身は何も得るものがないと考えていました。ところが「ろう付」の研究を進め、より深く理解していくうちに考えが変わっていきました。頼まれたことをきちんと処理する「ろう材」の役割を果たす人がいることで、人と人がつながり、組織が力を発揮できるようになると思うようになったのです。以来、頼まれごとには応えるよう努力しており、学生が私の姿を見て成長してくれることを期待しています。

私は「百聞は一見に如かず」という言葉が好きで、研究室でも学生がなるべく実際に見て触り、体験できる機会を作るよう工夫しています。とりわけ学会での発表は、学生が大きな経験を積む機会です。学生にとって学会発表は簡単ではありません。昨年6月にドイツで開催された学会で発表した学生は、何カ月も前から準備をし、現場では海外の研究者からの質問に必死になって答えていました。うまくいかずに相談を受けることが何度もありましたが、この経験を経て大きく成長してくれたと実感しています。

また、私は「冶金(やきん)」という言葉を大切にしています。「金属加工技術」全般を意味する言葉なのですが、古臭く、泥臭いイメージがあるため、使われる機会が減っています。しかし、たとえ目立たなくとも、ものづくりの基礎となっている技術をおろそかにしない人材になってほしいとの思いから、授業などでも積極的に使うようにしています。ものづくりの現場で実力を発揮する人材を社会に送り出す使命を持つ私にとって、重要な言葉なのです。

卒業生の活躍は最高の活力。成長した卒業生に再会できたときが、教員を職として本当に良かったと感じる瞬間です。

 

みやざわ・やすゆき 1963年東京都生まれ。東海大学工学部金属材料工学科卒業。東海大学大学院工学研究科金属材料工学専攻修了。専門は、材料・加工処理など。

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