News:研究
2020年9月1日号
核不拡散と安全を考察
国際原子力研究所が第1回講演会

東海大学国際原子力研究所の第1回講演会が、8月5日にオンラインで開催された。4月に開設された同研究所が、工学部原子力工学科の学生に最新情報を発信することが目的。「核不拡散と核セキュリティ」をテーマに、日本原子力研究開発機構の井上尚子氏(核不拡散・核セキュリティ総合支援センター能力構築国際支援室室長)が講演し、約40人が参加した。

同研究所は、東海大が60年以上にわたって展開してきた原子力・放射線分野の教育・研究の伝統と成果を引き継ぎ、さらなる研究発展と高度な専門性を持った人材の育成につなげることを目的に設置された。

東海大は、1956年に工学部応用理学科原子力工学専攻(現・工学部原子力工学科)を設置し、日本の大学に先駆けて原子力分野の研究と人材育成を展開してきた。長年にわたって原子力開発機構で研究開発に携わってきた同学科の堺公明教授は、「東海大の卒業生は原子力利用のさまざまな現場でキーパーソンとして活躍しており、この分野の屋台骨を支える存在になっている」と語る。

2010年代からは国際連携も強化。原子力発電所の建設を目指すアジア諸国から研修生を受け入れてきたほか、13年からは国際原子力機関と協力して「原子力の国際安全基準研修コース」を毎年開催している。22年に予定されている東海大の改組で原子力工学科が応用化学科を中心に工学部内で再編されることを受け、国際連携事業も引き継ぐ予定だ。

安全を支える人材育成へ最新の情報を紹介
講演では井上氏が、医療や教育・研究、発電など幅広い領域で利用されている核物質の軍事転用を防ぎ、平和利用を担保する核不拡散と、核・放射性物質および原子力施設等がテロなどの犯罪に利用されることを防止する核セキュリティについて解説。国際的な枠組みや基本的な考え方、取り組みに触れ、日本原子力研究開発機構による核物質の非破壊測定・検知や鑑識技術に関する研究と、核不拡散と核セキュリティを担う人材を育成する研修プログラムの概要を紹介した。

堺教授は、「原子力工学には、高い倫理感や社会的な課題に対する広い視野と問題意識を持ちつつ、深い専門性を持った人材が欠かせません。今回の講演も、そうした問題意識を培うよい機会になったと考えています。今後も国内外の機関と連携した教育・研究を展開し、最新の情報を発信する機会を積極的に設けたい」と話している。


【所長インタビュー】持続可能な社会の実現に貢献する
国際原子力研究所 稲津敏行 所長(副学長)

東海大学が原子力分野の研究と人材育成を手掛けてきた背景には、創立者・松前重義博士の「大きな力を持つ技術だからこそ、人類の発展のために活用すべきである」という強い思いがあります。国際原子力研究所では、工学部原子力工学科が受け継いできたこの理念を継承し、さらに発展させていきたいと考えています。

研究領域では近年、学部や学科の枠にとらわれない「研究所」の方が、組織内外の研究者同士の連携が進みやすい傾向にあります。「原子力」は工学だけでなく、環境問題や社会制度、政策などもかかわる社会性の強い分野でもあります。本研究所でも、工学のみならず、医学や農学、政治学など幅広い分野と共同研究を展開しながら、持続可能な社会の実現にも貢献していきたいと考えています。

また分野横断型の共同研究に携わることで、学生たちもこれまで以上に大きく成長する環境が用意できると期待しています。原子力分野で活躍する人材には、社会全般についての広い視野と極めて高度な専門知識、倫理感が求められます。大学院生が研究所の手掛ける共同研究に参画しながら、そうした力を磨く機能も持たせたいと考えています。

今年8月にはアラブ首長国連邦で同国初の原子力発電所の運用が始まるなど、原子力人材へのニーズは世界的に高まっています。国際原子力機関や国内の研究機関と連携し、原子力安全を学ぶ教育プログラムも開発・展開していきます。

 
(写真)講演では、技術や枠組みだけでなく文化の重要性が紹介された