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コラム

2017/07/01
何度も読み返した小説やマンガ、学生時代に読み込んだ教科書、人生を変えた一冊など、東海大学の先生方が大切にしている本を紹介します。

『ヨーロッパ統合』


EUはどこへ行くか
教養学部国際学科 小山晶子 准教授


学部生として大学で国際政治学を学んでいた時期は、冷戦が終結した数年後であり、東ヨーロッパの社会主義諸国が民主化の道を歩みはじめ、ヨーロッパにおける地域統合に拍車がかかっていた。

EC(欧州共同体)は、そのころにEU(欧州連合)と名称を改め、欧州連合の旗をシンボルとして掲げ、単一通貨の導入に向けて政策を推し進め、さらなる政治・経済・社会分野における政策の協調が期待されていた。このような時代背景の中で、私は鴨武彦著の『ヨーロッパ統合』を手に取った。

本書では、ヨーロッパで進められている地域統合という大実験について、幅広い読者にもわかりやすく、かつ学術的な関心を損なうことなく紹介されている。

各節のタイトルや小見出しに、非常に興味をそそられる。たとえば、「共有される主権」、否定される「脅しの体系」、EC統合を支える市民の意識、ボーダレス・ソサエティへの方途、「ヨーロッパ合衆国」という処方箋、などである。短い節の中で、簡潔にヨーロッパの地域統合に見られる特異性が論じられている。

現在担当している「ヨーロッパ研究」の授業でも、このようなテーマの取り上げ方ができれば面白いだろうと思う。

「本棚の一冊」の執筆依頼をいただいて、20年近くを経てから再び本書を開き、見返してみた。重要だと思われる用語が四角で囲まれ、余白には簡単な解説がメモ書きされており、文章には線が引かれている。

こんなふうに読み込んだ記憶はすでに薄れてしまっているのだが、この著書を読んで、鴨先生の講義や講演に足を運ぶほど「ヨーロッパ統合」にのめり込んだことは、今でも鮮明に覚えている。

近年ヨーロッパが語られる文脈は、ユーロ危機、難民危機、Brexit、ポピュリズムの台頭、テロリズムなど、地域統合に対して後ろ向きであるものが多い。

このような趨勢の中で、本書のような時代に書かれた本棚の図書は、ヨーロッパが統合へ前向きであったその動因を振り返る、よい機会を与えてくれる。


『ヨーロッパ統合』
鴨 武彦
NHKブックス
 
おやま・せいこ 1973年兵庫県生まれ。ストラスブール大学政治学博士後期課程修了。専門はヨーロッパ研究、移民の社会統合。著書(共著)に臼井陽一郎編『EUの規範政治』(ナカニシヤ出版)などがある。

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