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研究

2018/12/01

産学連携の輪を広げる

【つながる大学×企業】熱音響を企業向けに講義

工学部動力機械工学科の長谷川真也准教授の研究室による「熱音響機関」の技術を、複数の企業向けに全8回の講義で教示する「2018年度熱音響技術指導(基礎編)」が9月からスタートした。「基礎編」は1年間かけて講義と実習を行い、来年10月から1年間は「応用編」を実施予定。新たな産学連携の形が構築されている。

熱音響現象に関する基礎的な計測方法と理論を学ぶ機会を設け、企業の新技術開発や産学連携の共同研究につなげようと、東海大学総合科学技術研究所と研究推進部が企画したもの。東海大ではこれまでも、各分野の教職員が共同研究のパートナーやアドバイザーとして幅広い業界で企業・団体に協力してきたが、一つの研究室が複数の企業を対象に長期的な講義を行うのは初となる。

今回は全国から自動車メーカーや金属加工会社など8社が参加。参加者は熱音響実験セットを使い、構造を学びながら自励振動可能な装置の組み立て方法や熱効率の測定などを実践形式で学んでいく。

講義テーマである熱音響機関の技術は、構成が比較的簡易でメンテナンス費も安く抑えられるが、測定方法や研究アプローチを確立できず自社開発に頓挫する企業が多い。一方で再生可能エネルギー技術として近年注目を集めていることから、長谷川准教授の研究室にはこれまでに100件をこえる企業からの問い合わせがある。

長谷川准教授は、「熱音響機関は開発の余地がある新しい技術。機密を含まない基礎的な部分は各社が共通領域としてともに学び、そのうえで自社開発や産学連携を行えば、業界全体の活性化につながります」と語る。

座学と実習を交互に実施 講義の工夫で理解深める

技術指導の初回は、東京・霞が関の東海大学校友会館で熱音響現象の概要説明を含むガイダンスを行い、10月22日に湘南校舎で行われた第2回は、実際に熱音響実験セットを組み立てた。

「熱音響機関の開発に初めてかかわる方に、いきなり数式だけで仕組みを理解してもらうのは難しいため、座学で概念を説明した後に実験セットを製作してもらいました。一度実物を前にすると新たな疑問や質問が出てくるので、その都度フィードバックします」と、実装置と理論をリンクさせて学べるよう講義のスケジュールが組まれている。

アイシン軽金属(株)の稲垣憲治さんは、「数学の深い知識がないので座学だけでは理解できない部分もあるけれど、実習と交互に開催してもらえると理解しやすい」と話す。同社は、工場の廃熱を利用した新技術を開発しようと、本社のある富山県から参加。「工場の中は暑いので、冷却装置を作って現場の環境改善につなげたい。まずは身近な課題を解決し、ゆくゆくは商品化につなげられれば」と目標を語った。

参加者を研究員登録 1年間で基礎を固める
12月17日に予定されている第3回では、参加者が組み立てたセットを使って最も臨界温度が低下する構成を見つけ、その結果を発表する。それまでに必要な作業を大学で行えるよう、第2回の実習後から参加者が大学に研究員登録され、湘南校舎J館にある総合科学技術研究所の研究室で実習に取り組んでいる。

長谷川准教授は、「企業の方が研究員登録され、自由に研究と実験ができるのは新しい試み。参加者からは新事業の開発に向けたモチベーションの高さを感じます。基礎編、応用編と学んでもらえれば、学術的な理解のずれや意思疎通の不具合は通常の共同研究より減少するはず。最終的にはいくつかの企業と連携して、大型国家プロジェクトや東海大発の新しいデバイスの構築などにつなげていきたい」と、新たな産学連携の形に期待を寄せた。

今後は1、2カ月に1度のペースで全体講義を開き、来年9月に実技・筆記試験を実施。規定点数に達した参加者には受講修了書が発行される。

(写真上)第2回講義終了後、各企業の担当者が湘南校舎を訪れて装置を組み立て、仕組みを学びながら実験を繰り返している。「自社ではできない作業や実験ができるのでありがたい」といった声が上がっている
(写真下)座学では長谷川准教授が、数式や図を用いて熱音響現象の理論を解説。参加者は熱心にメモを取り、講義後も多くの質問が寄せられていた

 
研究推進部 長 幸平部長
総合科学技術研究所 岩森 暁所長に聞く
世界に通用する日本の技術を

「熱音響技術指導」を主導したのは、産業化につながる技術の構築を目指す総合科学技術研究所と、産学連携を推進する研究推進部だ。

総合科学技術研究所の岩森暁所長(工学部教授)は、「熱音響機関は構造が複雑ではないので、簡単に事業化できる技術だと誤解している企業が多い。独自に熱音響機関を用いた蓄熱器や冷凍機を開発する際に、高効率・低温発振を実現する設置位置と流路径の組み合わせといった、実動させるためのノウハウがなくつまずくことが多い。こうした基礎知識の部分を複数の企業に伝え、大学と企業が協力しながら世界で通用する技術に育てていくことが目標」と、開催の意図を語る

東海大では2016年から、総合大学の強みを生かし、学部をこえた教員からなる戦略的研究チームが産業界・企業と連携する研究支援のプログラム「Tokai TIARAProgram」を展開している。

「TIARAとの違いは、企業側にもグループ化してもらい“組織対組織”の研究体制を構築するという点。熱音響技術は、現在学内でグループ化している自動車開発技術の研究にも応用していこうと進めています。企業とはTIARAに発展する将来も見据えて、まず非競争領域の中で情報交換をしてもらいながら一緒にやっていくのが理想」と語った。

また、研究推進部の長幸平部長(情報理工学部教授)は、「近年は国の公募研究でも、産学連携を前提としたものが増えている。今回のような形であれば、一企業と個別に進める協同研究や複数の企業と連携していく協同研究など、多角的な展開が可能になる。大学としても新しい形態の取り組みなので、どう動いていくか楽しみ。将来的にはさまざまな研究分野で同様の取り組みを展開していきたい」と、産学連携の広がりに期待を寄せている。
Key Word 熱音響
機関工場、自動車、工業機械などが使用している熱エネルギーの内、未利用の廃熱を回収し、電気や冷却・加熱に再利用するエンジン装置。可動部品を用いることなく一定の温度差があれば音波(気柱振動)を発生させることができ、基本的には半永久的にメンテナンスを必要としない。産業排熱、自動車排熱、太陽光エネルギーなど多様な熱源を利用した冷却・発電システムの実現を可能にする。

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