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コラム

2012/02/01
何度も読み返した小説やマンガ、学生時代に読み込んだ教科書、人生を変えた一冊など、東海大学の先生方が大切にしている本を紹介します。

『トケイヤーのユダヤ格言集』


「ユダヤから得る」生きる知恵
高輪教養教育センター 貴田研司 講師


学生時代、加藤諦三氏の著書にあった「人類を愛することは易しい、だが、隣人を愛すことは難しい」という言葉に感銘を受け、出典は何だろうと疑問を持ち続けていた。大学院生のときに立ち読みした本でそれがユダヤ格言と知ってから、ユダヤに関する本を読みあさるようになった。

「勤勉さなら日本人、効率ならユダヤ人」といわれるなど、双方が合わさればさぞ面白い文化ができるのではないかと期待している。ユダヤは、独特のジョークを持っている。例えば、ある男性が友人への借金の返済期限が明日に迫り、眠れない一夜を過ごしていると、奥さんが、「お金を返してもらえないで本当に困るのはお友達の方じゃないの」と返す。ユダヤ逆転の発想を垣間見る思いがする。

ユダヤの戒め、口舌の禍『人間は口によって滅びることはあるが、耳に滅びた者はいない』を取り上げてみよう。「鳥を籠から逃がしても、また捕まえることができるが、口から逃げた言葉を捕まえることはできない」「口よりも、耳を高い位置につけよ」「人間は、しゃべることは生まれてすぐ覚えるが、黙ることはなかなか覚えられない」「嘘を口にしてはならない。しかし、真実のなかにも口にしてはならぬものがある」「もっとも大きな苦痛は、人に話せない苦痛である」

耳は2つ、口は1つしかない。耳は閉じられず、口は閉じることができる。そのことを思いついたら、話すことより聞くことを大事にしたいと常日ごろ考えるようになった。

日本の教育は、知識偏重、詰め込み主義などといわれることがあるが、この本には、「“知恵のない知識”はむしろ有害である! 取り上げましょう。今こそ”ユダヤの知性”に学べ!」とある。ユダヤ人は、知識を重んじるのと同じほどに知恵を尊ぶ。おそらくユダヤ人ほどジョークの多い民族はないだろうといわれるが、一つには、迫害に耐えて生きるのに笑いが必要だったためだろうか?

“ヘブライ”の意味が、“もう一方に立つ”ということを認識すれば、あらゆる角度から見る能力があってはじめて笑うことができる。これは機転であり、機知だと思われる。ユダヤというものは、いろいろな意味で全世界的に誤解されている部分も多いことを、たくさんの成書を読んで知った。皆さんも、いくつか読んでみられてはいかがだろうか?

『トケイヤーのユダヤ格言集』
ラビ・M・トケイヤー編著
助川明訳
三笠書房

 
きだ・けんし 1964年熊本県生まれ。東京理科大学大学院理学研究科博士後期課程数学専攻単位取得満期退学、理学修士。専門は数学(代数学)。著書に『情報科学のための線形代数』など。

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