Column:本棚の一冊
2021年9月1日号
『都鄙問答』


商いの原点
政治経済学部経営学科 アルマズヤッド オスマン 講師



『都鄙問答』は、江戸中期に活躍した思想家で、石門心学の創始者でもある石田梅岩が、「士農工商」の枠をこえて門弟たちや商人をはじめ、一般人と交わした質疑応答を四巻からなる一冊にまとめた修養書である。本書は主に孔孟の教えを基盤とし、世間では「商人の道を説く本」とよくいわれるが、武士の道、学者の道、政治の道、学問の道、親孝行まで「時代・国・宗教」をこえた普遍性を持った感慨深い書物だ。

石田梅岩は本書で、健全な社会をつくり上げるために「人間」としてのあるべき姿を多面的に説いている。加えて、社会の繁栄を実現するための「人間」にいかに投資し、豊かに暮らしていくのか、人間性を磨くための基礎を築き、現代の日本社会形成に多大な影響を与えた指南書といえる。

サウジアラビアから国費留学生として本学に留学し、教員となった今も家族経営の研究をしている一人として、本書の商人の道に焦点を置いて紹介する。

圧倒的な数の老舗企業を誇る日本企業には世界が注目しており、その多くが「家業」であり、どの国よりも長く存続している。「商いの秘訣」とは何かを考えてたどり着いた「揺るぎない価値観」に基づく経営理念が老舗企業を支えており、その価値観の土台を築いたのが石門心学の影響を受けた近江商人であり、日本独自の哲学である「三方よしの精神」である。

石田梅岩は本書の中で、商人の道について次のように述べている。「売り物の商品は大切に思い、決して粗末に扱わずに売り渡せば、顧客も最初のうちは金が惜しいと思うようなことがあっても、商品のよさが次第にわかってくると、金を惜しむ気持ちはいつの間にかなくなる」。これは本物志向の日本製「MADE IN JAPAN」、すなわち、心を込めたモノづくりや品質の高さを誇る日本企業の原点を説いている。

さらに「商人は、国の法を守り、人としての道を知らずに金もうけをし、不義の金をもうけることがあっては、やがては子孫が絶える結果を招きかねない。心底から子々孫々を愛する気持ちがあるなら、まず人としての正しい道を学んで家業が栄えるようにすべきであろう」と伝えている。企業の発展が社会にも繁栄をもたらし、家業の健全な承継の実現のためになる具体的な示唆を得ることができる。

不透明・不確実性が増している先が読めない今だからこそ、いま一度、原点に戻り、日本の尊い価値観を再認識させてくれる本書を、ぜひ読んでみてほしい。


『都鄙問答』
石田梅岩著
現代語訳:城島明彦
致知出版社

 
サウジアラビア王国リヤド生まれ。東海大学政治経済学部経営学科卒業。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。一般財団法人JCCP国際石油・ガス協力機関、日本経済大学を経て現職。専門は経営学。