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特集

2015/06/01
研究室おじゃまします!
各分野の最先端で活躍する東海大学の先生方の研究内容をはじめ、研究者の道を志したきっかけや私生活まで、その素顔を紹介します。

カスタマイゼーションとは?

“自分の好みの商品”を創造する

政治経済学部経営学科 遠藤誠二教授

スニーカーやTシャツ、バッグといった衣料品から、パソコン、自動車、お菓子まで、自分の好みに合わせて色や柄、機能を選択─カスタマイズ─して買えるシステムが、欧米主要各国の大小さまざまな企業に広がっている。では、日本でこのような買い物ができる仕組みは今後普及していくのだろうか? マーケティングや製品開発について日米欧の違いを調査・研究する政治経済学部経営学科の遠藤誠二教授を訪ねた。

大量生産される商品を消費者の好みに対応して提供するこのシステムは「マス・カスタマイゼーション」(MC)と呼ばれ、1990年代から各業界で普及してきた。アメリカでは大小さまざまな企業がこぞってWEBサイト上に「Customize」「Create & Share」といったページを設けており、さらにはカスタマイズしたものを消費者から消費者へと販売できるビジネスモデルも確立されている。

一方の日本では一部の企業を除いて、このようなシステムは一般的に普及しているとはいえないのが現状だという。

「そもそもMCは日本が発祥の地といわれています。それは、自動車メーカーなどが顧客の要望に合わせて柔軟に対応する、いわゆる“日本型生産システム”をいち早く構築したためです。日本人の得意な“きめ細やかなサービス”の現れといえるでしょう」と遠藤教授は解説する。

「その後のインターネットをはじめとしたIT技術の発展に伴い、カスタマイゼーションの可能性が拡大したにもかかわらず、なぜ日本市場にはあまり普及しないのか……さまざまな要因を探っているところです」

ではなぜ、欧米ではカスタマイゼーションが普及したのだろう?

「たとえば、さまざまな人種、体型の人間がいて、それに伴い多様な嗜好やニーズがあったこと、自分の好みを主張する国民気質などが考えられます」と遠藤教授。

「かつて“メード・イン・ジャパン”製品は世界中にあふれていましたが、現在、それぞれの市場に受け入れられる製品の欠如、魅力のなさから、残念ながら世界に通用する製品は少ないと言わざるを得ません」と遠藤教授は指摘する。

「日本の企業は世界で製品を販売するために、それぞれの市場へのきめ細かで丁寧なマーケティング・リサーチと、さらなるフレキシブルなカスタマイゼーションを取り入れていくべきではないでしょうか」

消費者の期待に応える魅力的な社会の実現を
マーケティング・リサーチでは、消費活動に関する仮定のストーリーをもとにしたアンケートを統計的に分析する手法が多くとられるが、遠藤教授はさらに「実際にカスタマイズ商品をモニターに購入してもらう」という独特の手法を用いる。「その人がどのように考えて製品を選び、実際に受け取ったときにどのような感想を持つのかまで聞き取ります。そのうえで、企業を訪問しての調査や製品自体の分析も加えていきます」と話す。

そうして得られた調査結果を、ゆくゆくは企業への提案や授業への活用へとつなげていく計画だ。「日本型生産システムを『カスタマイゼーションver1.0』とするなら、アメリカなどでITを活用したカスタマイゼーションが普及している現状は2.0と言えます。さらに3.0へと進化していかなくてはならない」と話す。

遠藤教授が描く「カスタマイゼーション3.0」とは、「顧客のニーズをもとに、あらゆる製品やサービスが手軽にカスタマイズできる社会」だと言う。

「高価で時間のかかるオーダーメードしかなかった時代から、工業技術の発達で大量生産が可能になり、高品質かつ低価格な製品が社会に出てきましたが、そこで止まってしまっている。さまざまなテクノロジーを利用し、そこにひと手間もふた手間も加え、素早くユーザーの期待に応えることで、もっと魅力的な社会が実現するのではないかと考えています」


focus
研究室は街の中
あらゆるモノに興味を


今の倍以上の重さはある初期型携帯電話、カメラは出始めたころのポラロイド……電話機やカメラだけでなく、研究室のあちらこちらにイスやサンダルなどさまざまなモノが並ぶ。

「趣味で集めたものも多いのですが、あらゆる年代のモノを並べて観察することで、その商品のたどってきた変遷が見える。これはマーケティングにとって重要な要素で、研究にも実益があるのです(笑)」

アメリカ・ミシシッピ大学で長く教鞭をとり、2011年度から東海大に赴任した。本欄は「研究室おじゃまします!」だが、「世界のどこであろうと“街の中が研究室”。行く先々で必ずスーパーマーケットや専門店に行き、どんな商品が並び、何が売れているのか注視し、店員に話を聞きながら、客の様子も見る。野次馬的観察こそマーケティングの醍醐味であり、本質です」

学生たちにはモノやヒトに興味を持ち観察することの面白さを伝えていきたいという。「経営やマーケティングはなにもビジネスだけに関する要素ではなく、さまざまな組織の運営に欠かせません。観察力を磨き、複雑につながった社会で活躍してもらいたいですね」

 
えんどう・せいじ 
慶應義塾大学商学部卒業。同大学院およびコーネル大学院修了後、バージニア工科大学で学位(Ph.D)を取得。ミシシッピ大学で教員を務める。2011年度から東海大学に赴任。専門はマーケティングで、特に消費者と企業の関係性の分析に取り組む。
Keyword カスタマイゼーション
マーケティングや製品開発、経営戦略などに用いられる用語で、大量生産と受注生産の2つの概念を両立させるもの。遠藤教授は、「Craft Production(アメリカ的手工業システム)とMass Production(アメリカ的大量生産システム)に、アメリカ人から見た日本的生産システム(Japanese Production System)とIT技術を融合させて、Customizationが創造された」と解説する。

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