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特集

2018/02/01
研究室おじゃまします!
各分野の最先端で活躍する東海大学の先生方の研究内容をはじめ、研究者の道を志したきっかけや私生活まで、その素顔を紹介します。

海の姿を正確に捉える

人工衛星の“眼”を生かし
工学部光・画像工学科 虎谷充浩 教授

地球全体の大気や海洋を観測する気候変動観測衛星「しきさい」が昨年12月23日に鹿児島県・種子島宇宙センターから打ち上げられ、4月からは本格運用が始まる。このプロジェクトには東海大学から工学部の虎谷充浩教授と情報理工学部の中島孝教授が、海洋チームと大気チームのリーダーとしてそれぞれ参画している。今回は、虎谷教授に海洋観測の狙いや可能性を聞いた。

「温室効果ガスの増加によって、将来は今より平均気温が5度ほど高くなる」「大型の災害が増加する」など、地球の将来についてさまざまな予測が発表されている。これらのデータは、すでに打ち上げられた人工衛星や地上での調査結果に基づいているが、「実はまだ正確にわかっていないことも多い」と虎谷教授は語る。

その一つが、海洋プランクトンが地球環境に与える影響だ。虎谷教授は、「しきさい」から送られてくる画像から海の色を観測。地球全体のプランクトンの分布や種類、川から海に流れ込む砂や有機物質といった懸濁物質の濃度を調べる海洋チームを率いる。

「一つひとつのプランクトンは小さいけれど、数が集まれば海の色が変わります。雪の粒が集まると富士山が真っ白に染まるのと同じように。海の色の違いで植物プランクトンの多い少ないも判別でき、時間ごとの分布域の変化も追える。『しきさい』には高詳細画像を撮影できるセンサーが搭載されており、これまで観測できなかった沿岸域も調べられると期待している」と話す。

「しきさい」は、1000キロ以上の幅で、地球全体を約2日間かけて撮影する。中でも分解能が250メートルと高いのが特徴で、宇宙から東京湾アクアラインにあるうみほたるや風の塔(通気口)が確認できるほど詳細なデータを得られる。

長年にわたる海色研究 パイオニアの技を
虎谷教授は1980年代から人工衛星を使った海色観測に携わり、海色の違いによって海に生息する植物プランクトンの濃度を調べられることを研究するなど、この分野をリードしてきた。

テレビ番組や学校の教科書でも人工衛星の撮影画像を見る機会は多いが、実はこれらの画像はさまざまな光の波長で撮影された複数の画像を組み合わせ、コンピューターで合成している。元画像には、「ノイズ」も多く含まれるため、それらを取り除く必要があるのだが、海色観測ではそれが何より難しいという。

「加工前の画像情報のうち海自体の色である放射輝度の情報は1割程度で、9割は大気の色や大気中のチリやガスといったエアロゾルの反射光、海面の反射光の情報が占めています。これらを補正して海の色を得たうえで、海洋調査で得られた海中の物質量と海色の関係に基づいて、植物プランクトン量などに変換していくのです。元の情報量が少ない分、大気中や海面からの散乱光の補正値を間違えると植物プランクトン濃度などの大きな誤差にもつながってしまうことから、高度な補正技術が要求されます」

漁業への応用も見据え まだ見ぬ世界を開く
研究には苦難も多いが、それでも続けてきた原動力は、「まだ誰も見たことのない地球の姿を見られる」との期待があるから。「宇宙から見た地球の画像は本当に美しく、興味が尽きない」と話す。

今回のプロジェクトでは国内外約30人の研究者らと協力。プランクトンの濃度や種類、分布、海洋環境への懸濁物質の影響の解明を目指し、解析に必要な実測データの収集も進めている。虎谷教授は、これらのデータは気候変動だけでなく、より身近な漁業などにも生かせると語る。

「プランクトンの分布情報を正確に観測できれば、魚群の動きを予測できたり、赤潮発生を予報して養殖業者の被害予防につなげられる。そのためにもまずは精度の高い観測ができるよう、研究を積み重ねていきます」


Close up
学生もプロジェクトに参加
海洋調査の一翼を担う


虎谷教授がリーダーを務める海洋チームには、研究室の4年生たちも参画している。

昨年10月17日から11月10日には、海洋調査研究機構の学術研究船「白鳳丸」を使った研究航海に三保谷稜さんと片野晃汰さんが虎谷教授と乗船。北海道から東北の沿岸域を巡り、各地で画像解析に必要となる大気中のエアロゾルや水中光の光学観測、植物プランクトン調査などに参加した。

また湘南校舎では米永有佑さんと小林季輝さんが調査とほぼ同時刻に人工衛星で撮影された画像を処理し、「白鳳丸」に比較データとして送信する役割を担った。学生たちは、「さまざまな分野の研究者と接しながら観測データの取得方法を実践的に学ぶ貴重な機会だった」「仲間とコミュニケーションをとりながら協力することで大きく成長できた」と成果を語る。
 
学生たちは今後も、調査船での調査や「しきさい」のデータ解析に取り組む。虎谷教授は、「最先端の研究への参加は、社会人に欠かせない力を身につけることにもつながる。これからも学生と楽しみながら研究を進めたい」と話している。

 

とらたに・みつひろ 
1963年大阪府生まれ。東海大学大学院海洋学研究科修了後、東海大学開発工学部助教授などを経て2012年より現職。工学博士。専門は、海色衛星データ応用、沿岸域の海洋環境調査など。

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