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特集

2016/10/01
研究室おじゃまします!
各分野の最先端で活躍する東海大学の先生方の研究内容をはじめ、研究者の道を志したきっかけや私生活まで、その素顔を紹介します。

情報通信技術で遠隔サポート

被災地の看護師を孤立させない!
健康科学部看護学科 大山 太 准教授

地震や台風など、近年、大きな災害が立て続けに発生している。交通や通信が途絶えた被災現場では、一人の看護師に避難所での救護活動や健康管理が任されるケースが少なくない。こうした状況に置かれた看護師を、情報通信技術(ICT)で遠隔地から支援するシステムを研究しているのが、救急看護の専門家でもある健康科学部看護学科の大山太准教授だ。

2011年の東日本大震災で被災した宮城県石巻市を医療支援チームの一員として訪れた大山准教授は、ある施設で孤軍奮闘する看護師から、「助けてください!」と声をかけられたという。

「看護師は通常、医師などさまざまな専門職とチームを組んで活動しますが、被災地ではたった一人で看護活動にあたらなくてはならない場合も多い。これは大変な重圧です。“助けて”の言葉の意味は大きかったですね。極度の心理的ダメージを受け、看護職に復帰できなくなるといった事例も実際に出ています」

被災地で活動する看護師を孤立させてはいけない――その思いが、ICTを利用した看護師の遠隔支援システムの研究開発へと向かわせた。

大山准教授は2002年から2年間、遠隔医療の第一人者である医学部の中島功教授の研究室に特定研究員として所属。ICT技術を使った遠隔医療に関する研究を積み重ね、その後も無線通信を使った災害時の医療サポートシステムづくりに携わってきた。「災害は“待ったなし”で発生する。時間をかけてはいられない。一気にこのシステムを完成させたい」と意気込む。

共同研究者に名を連ねるのは、通信工学や画像解析の研究者のほか、災害医療が専門の医師や看護師。多岐にわたる研究項目の進捗状況を把握し、全体を統括するのも、研究代表者である大山准教授の役割だ。

最低限必要な情報を 即座に確実に送受信

「ポイントの一つは、電話やインターネットなどの通信網が破壊された状況でも使える通信回線の確保。人工衛星による衛星通信と地上系の無線通信を組み合わせた回線を検証しています」と進捗状況を説明する。

現場の看護師と外部にいる医師らが情報を送受信するためのプラットフォームの構築も重要だ。災害看護に必要な、文字や画像、音声による情報のコンテンツを選定し、簡単に使えるアプリケーションやインターフェースの制作にも取り組む。

「極細の通信回線で正確な状態を伝えるためには、最低限必要な解像度の見極めも必須。研究では皮膚を課題に挙げて、色や状態を正しく撮影し、認識するための方法も探っています」

現場の看護師にも 心のケアを
教員になる前は、看護師として医学部付属病院の救命救急センターに勤務していた大山准教授。ドクターヘリでの診療や洋上救急にも参加した。

現在も、独立行政法人国際協力機構による国際緊急援助隊の一員として活動。08年に発生した中国・四川大地震や11年のニュージーランド地震、13年のフィリピン台風被害などの被災地で、医療支援活動を続けている。

「災害時の被災者救援活動には、看護の質と同時に説明責任も求められる。このシステムを通じて看護師が医師などからアドバイスを受けられれば、被災者の命を救うだけでなく、現場の看護師だけに責任を負わせることもなくなる」と大山准教授は話す。

必要な情報を素早く確実に送受信できるシンプルなシステムが完成すれば、被災地で活動する他の医療従事者や、平時の遠隔治療にも応用が可能だ。「被災地で救護活動に取り組む仲間たちを支援するために“実際に使える”システムをつくる。それが、ゴールです」


focus
災害時の経験伝え
後進を育てる



「いったい何学部の研究室ですか、とよく聞かれるんですよ」。研究室に置かれた2本の大きなアンテナを指して笑う大山准教授。「子どものころから無線が好きで、通信工学系の分野に進みたいと思っていた」はずが、東海大学山形高校在学時にたまたま目にしたパンフレットをきっかけに、医療技術短期大学に進学した。

「“看護師になる”という強い意思があったわけではないから熱心な学生じゃなくて(笑)。学ぶことの面白さに目覚めたのは、働き始めてからですね」

卒業後は付属病院の救命救急センターに入職。「若いうちに厳しい現場を経験したい」と考えて希望した職場だったが、仕事は想像以上にハードだった。「先輩たちも皆、厳しかった。でもそれは仕事に対する真摯な姿勢の表れ。全力で患者を救い、体当たりで後輩を指導してくれました」

研究者、教育者に転身後も、多忙な日々の中で国際緊急援助隊医療チームのメンバーとして世界中の被災地に赴く。過酷な現場で働くレスキュー隊員たちの心のケアや健康管理も重要な任務だ。

9月に開講した看護師キャリア支援センターの救急看護認定看護師教育課程の非常勤講師も務める。「被災地での経験を伝え、後輩を育てることにも力を注ぎたい」
 
おおやま・ふとし 
1970年山形県生まれ。東海大学医療技術短期大学を卒業後、医学部付属病院救命救急センターに勤務。健康科学部に編入学し、大学院健康科学研究科看護学専攻修了、群馬大学大学院保健学研究科博士後期課程修了。保健学博士。2009年東海大学健康科学部看護学科講師。16年4月から現職。

(写真上から)
▼被災地での単独活動を余儀なくされた看護師からの相談や報告、要請に対し、知識・経験の豊富な医療従事者が遠隔地から助言や提案、医学的指示などを提供するシステムを構築する
▼医学部付属病院の屋上に建てられた研究用の無線アンテナ。被災時でも使えるよう、太陽光パネルを使用している

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