特集
2022/01/01【沖ノ鳥島研究調査航海】
大学院生・学生の貴重な学びの場に
東海大学が東京都と連携し、学園の海洋調査研修船「望星丸」で昨年12月5、6日に実施した沖ノ鳥島研究調査。海洋学部では、静岡キャンパス長を務める山田吉彦教授を調査責任者、石川智士教授を主席調査員として教員9人が調査団に参加し、大学院総合理工学研究科や海洋学研究科の大学院生、海洋学部の学生も望星丸に乗船して調査の一翼を担った。静岡キャンパス、海洋学部の総力を挙げた調査の様子に迫った。
清水港からおよそ1630キロ離れた“絶海の孤島”沖ノ鳥島。12月2日に出港し、3日間をかけて周辺海域へと到着した望星丸は、まず島の外周を2周して外観の調査を行った。11月30日に同島周辺で発生し、4日に南鳥島近海で温帯低気圧に変わった台風21号の影響もあり、大きな波とうねり、強風に見舞われた望星丸は調査スケジュールを変更。5日は風に対して島陰にあたる南側で、望星丸に搭載されているマルチナロービーム(MNB)を使って海底地形を詳細に記録した。
運用は海洋地球科学科の馬塲久紀准教授の研究室のメンバーが担当。このために約1カ月、望星丸に乗船して準備してきた永井あすかさん(海洋学研究科1年)は、「本番では課題もたくさん見つかりましたが、実際の調査は面白く、今後の研究の糧になりました」と笑顔で語った。
馬塲研究室では、翌日に実施したドローンを使った撮影も担った。海洋学研究科を修了し、付属静岡翔洋高校で教鞭をとる広林智史教諭が操縦、総合理工学研究科3年の中尾凪佐さんが撮影と役割を分担。強風下での難しいオペレーションとなったが、馬塲准教授や永井さん、篠原大輔さん(海洋学部4年)がサポートし、息の合った操作で島を空から捉えた=1面に写真掲載。「広林教諭が冷静に操縦してくれて、上空からの貴重な映像を残すことがきました」と馬塲准教授は語る。
臨機応変に対応 貴重なデータを残す
気象・海象や海水の採取といった調査で、出港前から準備にあたり、望星丸船内での生活補助などさまざまな場面で活躍したのが、環境社会学科の石川教授、廣瀬慎美子准教授の研究室に所属する学生たちだ。
石川教授の研究室に所属する行冨初さん(海洋学研究科2年)は、環境DNAの調査を担当する神戸大学研究員の鄔倩倩さんの作業などをサポート。「望星丸に乗船するのは学部生のとき以来ですが、実習と調査では緊張感が違いました。オンとオフの切り替え方など、社会に出ても生かせる経験が積めたと感じています」と振り返る。
海洋学部生の必修科目である「海洋実習」での補助も務めてきた廣瀬准教授の研究室に属する学生たちは、経験を生かして天候や海況によって変更となったスケジュールや調査内容にも対応。教員ら研究者の作業をサポートし、データの採集にも取り組んだ。
「沖ノ鳥島周辺はなかなか来ることができないエリア。貴重なデータを残せてうれしい」と井上裕太さん(3年)。表面観察を担当した笹野智生さん(同)は、「学生間で役割を決め、臨機応変に作業に臨めました。船酔いはきつかったけれど、参加できてよかった」と充実した表情を見せた。
石川教授は、「風向きに対してどの位置が島陰にあたり、調査できるか否かなど、次回以降につながる成果が得られました。学生たちも乗船前から頑張って準備し、調査の現場を経験することで成長の機会にしてくれました」と話している。
海洋研究の発展につなげる
静岡キャンパス長 山田吉彦教授
私自身、沖ノ鳥島には日本財団に在籍していた2005年以来、16年ぶりに訪れました。当時から場所が移された観測基盤や桟橋建設工事の進捗などを実際に目の当たりにし、着実にこの島が我が国の領土としての主張を支えられるよう開発が進んでいることが確認できました。
日本、アメリカ、中国がかかわる海洋安全保障上も重要な位置にある沖ノ鳥島の管理状況の充実は、スピードアップが求められています。本調査航海の成果を生かし、漁業や観光などで具体的な活用法を打ち出し、排他的経済水域の起点であることのさらなる主張につなげなくてはなりません。この成果を広くアピールし、国境離島の現状を多くの人々に知ってもらいたいと考えています。
今回の調査航海は、海洋学部と望星丸を持つ、東海大学にしかできない取り組みです。
静岡キャンパスの総力を挙げ、学科・センター・研究所の枠をこえた9人の教員が参画し、大学院生や学生も加わり、連携して調査できたことも大きな成果です。今後もこのような総合力を生かして、海洋研究の発展に貢献していく考えです。
関連記事=沖ノ鳥島研究調査航海 海洋学部が東京都と連携
やまだ・よしひこ 1962年千葉県生まれ。学習院大学経済学部卒業、埼玉大学大学院博士課程修了。東洋信託銀行、日本財団を経て、2007年に海洋学部に着任。国境離島政策、海賊問題、海洋安全保障を追求し、正論新風賞など受賞多数。
(写真上から)
▼環境DNAやプランクトン、マイクロプラスチック、栄養塩などを抽出するため、水深5メートルから海水をくみ上げた
▼沖ノ鳥島への航海中も学生たちは廣瀬准教授=右奥=の指導のもと調査に向けた打ち合わせを繰り返した
▼海域の表面観測に臨む学生たち
▼風速12メートルをこえる強風下でドローンを飛ばす馬塲准教授の研究室のメンバーたち。飛行中もオペレーターの広林教諭に絶えず風向きや風速を伝え、見事に撮影に成功した
▼MNBで得られた情報を画像として可視化。同島周辺海域における公の海底地形データは1990年代から更新されておらず、貴重なデータ採集となった
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