特集
2022/04/01
古代人は夜空に輝く天体をどのように見ていたのだろうか―。「いつの時代も太陽や月をはじめとした天体は、人類にとって特別な存在だった」と語り、遺跡や古墳と天体の関係性から古代の思想をひもとく研究に取り組む文学部歴史学科考古学専攻の北條芳隆教授を訪ねた。
北條教授らが作成した西暦235年12月12日の月の出のシミュレーション画像。空を走る左の線が月の軌道を指し、中央と右の線はそれぞれ春分・秋分、夏至の太陽の軌道となっており、吉野ケ里遺跡での「月の観察会」ではこの画像のとおり、月の出と北内郭軸線方向が一致した
昨年12月12日、佐賀県にある弥生時代の大規模環濠集落・吉野ケ里遺跡に集った北條教授をはじめとした考古学者や天文学者による研究グループ。午後6時ごろに主祭殿などが復元された「北内郭」の北東に月の一部が見え始めると、大きな歓声を上げた。「西暦235年の12月12日も同じ位置から月が昇ったはずです」と、北條教授は目を輝かせる。
「吉野ケ里遺跡の中枢とされる北内郭は、真上から見るとアルファベットの『A』のような左右対称の形をしており、中央の軸線が設計の基準になったと考えられています。この軸線はこれまで夏至の日の出に関係しているとされてきましたが、方角が少しずれています。そこで月に注目してあらためて調査しました」
地球から見た月の軌道は、18.6年周期で高低が変化する。最も高く昇る時期を「極大期」と呼び、吉野ケ里遺跡の場所に大規模集落が形成されたとされる235年と昨年の12月はともにこの期間にあたる。「北内郭の軸線は、月の出る方角と一致しました。ほかの遺構でも同じ例が見られることから、古代人も天体や方角に対して特別な感情を抱いていたという証拠だと考えられます」
天文学や暦学と融合 考古学に新たな視点
北條教授は、2016年から天体と遺物の関係性について本格的な研究を始めた。「古墳について研究を続ける中で、その軸線と天体の軌道には何らかの関係性があるのではないかと考えるようになりました。目新しい分野だったこともあり、考古学者の多くからはそっぽを向かれてしまいました。ただ、天文学や暦学の専門家からは注目され、議論を深めるうちに意気投合していきました。そうして国立天文台や東京大学、南山大学の研究者らと共同研究をスタートさせました」
北條教授が研究代表を務めるグループは19年に、「天文学との連携にもとづく考古学・古代史学研究法の構築」のテーマで科学研究費助成事業基盤研究Aに採択。多様な学問が融合した研究の成果が吉野ケ里遺跡での「月の観測会」へとつながっていった。
固定概念にとらわれず 古代の姿を追い求める
研究グループでは、古墳と天体軌道の関係性についてさらなる解明を目指している。2月6日には、北條教授と同専攻の宮原俊一准教授、北條研究室に所属する白川美冬さん(大学院文学研究科1年)が、岡山県・造山古墳と作山古墳で地中レーダー調査を行った。「両古墳の軸線は北極星の方向、つまり真北を向いていることがわかっています。ただ、地中の石室や埋葬施設が見つかっていない。調査では複数の反応が認められたので、湘南校舎でさらにデータを分析し、実像を解明していきます」
全国の古墳でも同様の調査を展開している。「一般的な古墳研究では、社会の成り立ちや政治史と関連づけた考察をまとめますが、それで終わってしまうのは狭い見方ではないでしょうか。支配者と被支配者の関係以外にも、自然や周辺の景観とのつながりもあったはず。固定概念にとらわれず視野を広げ、古代の姿を追い求めたい」
プロフィル
ほうじょう・よしたか
1960年長野県生まれ。岡山大学法文学部卒業。大阪大学大学院博士後期課程満期退学。2002年に東海大学文学部歴史学科考古学専攻に着任。07年から現職。
close up 大学院生
大学院文学研究科史学専攻2年 白川美冬さん
北條教授らによる古墳調査に参加し、地中レーダー探査やデータ分析を担当する白川さん。「もともとは狩猟に興味があり、その歴史を学ぼうと東海大学に進学しました」と振り返る。
学部3年時に、北條教授の授業を受講し、「天体の動きをシミュレーションするソフト『ステラナビゲータ』をはじめ、現代技術を駆使して過去の遺構を分析する研究を知りました。とても魅力的に感じ、卒業論文のテーマに決めました」。
研究室では、東北・関東地方の前方後方墳114基を調査し、軸線が月や北極星だけでなく、富士山の方向にも向けられていることをまとめた。大学院でも全国各地で調査を継続。北條教授は「どんなに手間のかかる作業もいとわず、地道な努力を惜しまない。考古学に必要な素養を持ち合わせており、私たちの研究になくてはならない存在です」と信頼を置いている。
学会でも自身の論文を何度も発表している。「古墳や遺跡から太陽や月、星を見ると、古代の人とつながった気持ちになります。これからも自分の手で新しい事実を見つけられるように研究を進めるのはもちろん、多くの人にこの分野の魅力を伝えたい」
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