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特集

2024/02/01
研究室おじゃまします!
各分野の最先端で活躍する東海大学の先生方の研究内容をはじめ、研究者の道を志したきっかけや私生活まで、その素顔を紹介します。

アスリートの競技能力向上目指し

低酸素環境下での練習メソッド探る

体育学部競技スポーツ学科 丹治史弥助教

運動をしていると息が上がってしまい、体が動かなくなったことがある人は多いはず。駅伝やマラソンを見ていても、先頭のペースについていけず、遅れてしまう選手がいる。なぜ人は運動していると徐々に体を動かしづらくなるのだろうか――。このメカニズムを解明し、アスリートの競技能力を向上させる「低酸素環境トレーニング」を研究する体育学部競技スポーツ学科の丹治史弥助教(陸上競技部駅伝チームコーチ)を訪ねた。

 

湘南キャンパス15号館に設置されている

低酸素テント。丹治助教のアドバイスの下、

駅伝チームの選手らがトレーニングに励む

陸上競技の中長距離種目では、酸素をたくさん体に取り込み、効率よく体を動かせば高いパフォーマンスが発揮できる。体重1キロあたり1分間に取り込める酸素の量は「最大酸素摂取量」、決まったエネルギー量でどれだけ効率的に走れるかを示す数値は「ランニングエコノミー」と呼ばれる。「この2つの指標を計測すると、選手個々のパフォーマンスレベルを可視化できます」と丹治助教は話す。最大酸素摂取量が多い選手は、比較的ランニングエコノミーの数値が悪い傾向があるというが、「まれにどちらも優れた選手がいて、彼らはトップアスリートとして成功を収めています」。

 

そこで、丹治助教は研究室に所属する学生や陸上競技部駅伝チームの選手、スタッフらと共に、2つの数値の向上を図るトレーニングメソッドの開発に力を注いでいる。

 

低酸素テントを活用 故障のリスクを低減

有効な手段として注目しているのが、低酸素環境でのトレーニングだ。湘南キャンパス15号館に設置されている「低酸素テント」は、内部の酸素濃度を自由に変えられ、テント内にはランニングマシンやエアロバイクが置かれている。「パフォーマンスの向上には、血中酸素濃度が低くても動かせる筋肉をつくる必要があります。低酸素環境で運動を続けることで筋肉に効率的な動きを覚えさせると、少ない酸素でも力を発揮する筋肉がつくられます」

 

屋外でも走り込みを続ければ血中酸素濃度は下がり、テントを用いたときと同様の効果を得られるが、「そのためには徹底的に体を追い込まなければならず、身体的なダメージが大きく、故障のリスクも高まります。低酸素環境を簡単につくれる設備内で練習すれば、故障のリスクを減らしてランニングエコノミーを向上させられます」とメリットを語る。

 

けがからの復帰に効果 歴史的な快走を後押し

「身体的なダメージが少ないということは、故障者のリハビリにも活用できる」と丹治助教は続ける。2020年1月の箱根駅伝6区で、区間新記録をマークした館澤亨次選手(体育学部19年度卒・DeNA)は、低酸素環境で驚異的な復活を遂げたランナーの一人。19年の夏に右太もも裏の筋断裂を負い、本格的な練習の再開まで4カ月以上もの時間を要した。

 

「2、3日走らないだけで心肺機能などが低下し、大きく競技能力が下がってしまう」という長距離種目で長期の離脱は選手生命を左右する。しかし、館澤選手はリハビリ期間に低酸素環境下で故障部位への負荷が少ないトレーニングを継続したことで、筋断裂が癒えるとすぐに通常の練習に復帰。山下りの難コースでの快走につなげた。このメソッドはチームの財産として今も故障からの復帰を目指す選手たちを後押ししている。

 

多くのメリットがある低酸素トレーニングだが、「現在ある低酸素テントは限られたスペースのため、ランニングマシンとエアロバイクが1台ずつしか置けません。リハビリに取り組む選手が使う時間が多く、全体的な選手強化には活用できていません」と丹治助教。「さらに大きな設備が整えば、選手たちの競技力向上に大きく寄与できる。東海大学には陸上競技部以外にも、全国トップクラスのアスリートが多数在籍しています。研究を進展させ、彼らのサポートにもつなげていきたい」と意欲を語っている。

 

【focus】
駅伝チームの一員として 選手、指導陣から厚い信頼

たんじ・ふみや

1990年奈良県生まれ。2015年

筑波大学大学院人間総合科学

研究科体育科学専攻修了。

17年博士(体育科学)取得。

19年から東海大スポーツ

医科学研究所助教に着任。

23年4月から現職。

「自身の競技能力を向上させたい」という思いから研究者の道を歩み始めた丹治助教。奈良学園高校3年時には全国高校総合体育大会3000メートル障害で優勝。筑波大学に進学すると、先輩から研究の被験者になってほしいと頼まれた。「最大酸素摂取量は高いが、ランニングエコノミーの数値が悪い」と指摘され、悔しさを感じると同時に研究への興味を抱いたという。

 

科学的な知見を生かしたトレーニングを続け、筑波大大学院修士課程2年時まで競技を継続。博士を取得した2017年からは、国立スポーツ科学センターのスポーツ研究部に籍を置き、日本トップクラスのアスリートをサポートしながら、研究に励んだ。

 

19年度から東海大学スポーツ医科学研究所に着任。駅伝チームの強化に携わるようになって5年、丹治助教について、両角速駅伝監督(スポーツプロモーションセンター教授)や西出仁明ヘッドコーチ(同准教授)は、「丹治先生がいるからこそ最新のトレーニングが導入できている」と厚い信頼を寄せる。選手たちも「日々の調子や成長を可視化できて、コンディションを把握しやすいので練習に生かせています」と感謝を口にした。

 

「今では箱根駅伝に出場する多くの大学が科学的なトレーニングを取り入れ、最新の設備を導入しています。その流れに取り残されないように、選手をサポートし、日本のスポーツ界の発展に寄与したい」

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