share

特集

2015/07/01
研究室おじゃまします!
各分野の最先端で活躍する東海大学の先生方の研究内容をはじめ、研究者の道を志したきっかけや私生活まで、その素顔を紹介します。

火山ガスで噴火を予知する

15年前から箱根山で定点観測

理学部化学科 大場 武 教授

火山性地震が活発化し、5月には噴火警戒レベルが2(火口周辺規制)に引き上げられた神奈川県の箱根山。理学部化学科の大場武教授は、この地で15年にわたって火山ガスの採集と分析に取り組んでいる。長年蓄積してきたデータから、今回の火山活動をどう読み解くのか―火山ガスと噴火の関係を聞いた。

「箱根山では2001年と13年にも、今回と同じような群発地震が起きているんですよ」と教えてくれた大場教授。大涌谷駐車場近く(定点)と、そこから少し離れた北斜面(新噴気)の2カ所を火山ガスの採集地点に定め、01年から2、3カ月に1度の割合で観測を実施。その後、火山活動の小休止によるブランクを経て、再び群発地震が起きた13年からは最低1カ月に1度、現地を訪れている。

二酸化炭素の増加が活発化の目印に

マグマ性ガスと地下水が混ざり合って地表に噴出する火山ガス。水蒸気のほか、二酸化炭素や二酸化硫黄、硫化水素などを含んでいる。大場教授はその成分変化を分析することで、火山の活動状態を調べている。

たとえば、二酸化炭素を多く含んでいるマグマ性ガスに比べ、地下水は硫化水素が多く二酸化炭素が乏しいという特徴がある。そのため火山ガスに含まれる二酸化炭素量が増えれば、マグマからたくさんのガスが出ていると判断できるのだ。

「噴火予知の分野では私のような化学的な分析よりも、火山性地震や地殻変動といった地球物理学からのアプローチが一般的です。しかし火山活動全体を考えると、ガスが地中で圧力を高め、それが引き金となって地震が起きる。だからこそ、ガスを調べることが重要だと私は考えています」

“目詰まり”解消で群発地震が起きた!?

ちなみに、今回の群発地震が噴火に結びつくおそれはないのだろうか?

「そんなに心配することはありません(笑)。数カ月後には元の状態に収まるでしょう」

その根拠として挙げるのが、火山ガス中の二酸化炭素量の上昇が止まったこと。それともう一つ、今回の群発地震は“目詰まり”が原因だと考えられるからだそうだ。

「マグマ性ガスのほうが地下水よりも重水素(水素の同位体)が多く含まれているのですが、火山ガス中の重水素の比率を調べたところ、2月からその値が急激に下降。ところが4月下旬になって群発地震が起きた後、どんと上がったのです=グラフ参照」

これは、マグマの周りにあるガスの通り道が一時的にふさがれてしまい、その中に閉じ込められていたガスが4月下旬になって一気に放出されたため。閉じ込められていたガスが地表に出てしまえば、元の状態に戻ると分析する=図参照。

ここ10年ほどで観測機器の精度が向上し、さまざまなデータが手に入るようになった。

「とはいえ、私たちに今できるのは、この火山が現在どのような活動状態にあるのかという“評価”にすぎません。今後も引き続き箱根山の調査を進めるとともに、他の山にも調査対象を広げることでデータを増やし、噴火予知に役立てていきたい」

(写真)箱根山での火山ガス採集の様子


focus
研究を重ねるほど謎が増えてい


JST(科学技術振興機構)とJICA(国際協力機構)の採択事業「カメルーン火口湖ガス災害防止の総合対策と人材育成」の研究代表者を務めるなど、海外での調査研究活動にも積極的に取り組んでいる大場教授。

「火山ガスを研究することで、地面の下で何が起きているのかを知ることができる。いかに貴重なデータをガスが運んできてくれているのか―そう考えると面白くて仕方がないですね」

大学で卒業研究に取り組む際、もともと好きだった天文学との共通点を期待して選んだ地球化学の世界。調べれば調べるほどわからないことが増え、やがて研究者の道へ。

「今だって同じですよ。常に悩んでいて、解決策をなんとかして見つけたいと思っています」

そんな大場教授が心がけているのが、学生の研究環境を整えること。

「研究が本当に好きな学生は、あれこれ指示をしなくても自分から積極的に進んでいく。そういう学生が思う存分に研究できる環境を頑張って用意するので、集中して取り組んでほしいと願っています」
 
おおば・たけし
1961年神奈川県生まれ。東京工業大学理学部化学科卒業。同大学院理工学研究科化学専攻博士後期課程修了。理学博士。東京工業大学草津白根火山観測所助手、同火山流体研究センター准教授を経て、2010年から現職。

研究室おじゃまします!記事一覧

2024/02/01

アスリートの競技能力向上目指し

2024/01/01

適切なゲノム医療推進に向け

2023/04/01

湘南キャンパスの省エネ化へ

2023/02/01

"日本発"の医療機器を世界へ

2022/06/01

細胞のミクロ環境に着目し

2022/04/01

遺構に残された天体の軌道

2022/01/01

海洋学部の総力を挙げた調査

2021/12/01

体臭の正体を科学的に解明

2021/10/01

メタゲノム解析で進む診断・治療

2021/06/01

将棋棋士の脳内を分析

2021/03/01

低侵襲・機能温存でQOL向上へ

2021/02/01

安心安全な生活の維持に貢献

2020/11/01

暮らしに溶け込む「OR」

2020/09/01

ネルフィナビルの効果を確認

2020/07/01

次世代の腸内環境改善食品開発へ

2020/06/01

運動習慣の大切さ伝える

2020/05/01

ゲンゴロウの保全に取り組む

2020/03/01

国内最大級のソーラー無人飛行機を開発

2019/11/01

新規抗がん剤の開発に挑む

2019/10/01

深海魚の出現は地震の前兆?

2019/08/01

隠された実像を解き明かす

2019/06/01

椎間板再生医療を加速させる

2019/05/01

自動車の燃費向上に貢献する

2019/04/01

デザイナーが仕事に込める思いとは

2019/03/01

科学的分析で安全対策を提案

2019/02/01

幸福度世界一に学べることは?

2019/01/01

危機に直面する技術大国

2018/12/01

妊娠着床率向上を図る

2018/10/01

開設3年目を迎え利用活発に

2018/09/01

暗記ではない歴史学の魅力

2018/08/01

精神疾患による長期入院を解消

2018/07/01

望ましい税金の取り方とは?

2018/05/01

マイクロ流体デバイスを開発

2018/04/01

ユニバーサル・ミュージアムとは?

2018/03/01

雲やチリの影響を解き明かす

2018/02/01

海の姿を正確に捉える

2018/01/01

官民連携でスポーツ振興

2017/11/01

衛星観測とSNSを融合

2017/10/01

復興に向けて研究成果を提供

2017/09/01

4年目を迎え大きな成果

2017/08/01

動物園の“役割”を支える

2017/06/01

交流の歴史を掘り起こす

2017/05/01

波の力をシンプルに活用

2017/04/01

切らないがん治療を目指す

2017/03/01

心不全予防への効果を確認

2017/02/01

エジプト考古学と工学がタッグ

2017/01/01

コンクリートの完全リサイクルへ

2016/12/01

難民問題の解決策を探る

2016/11/01

臓器線維症の研究を加速

2016/10/01

情報通信技術で遠隔サポート