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特集

2015/10/01
研究室おじゃまします!
各分野の最先端で活躍する東海大学の先生方の研究内容をはじめ、研究者の道を志したきっかけや私生活まで、その素顔を紹介します。

湘南校舎は遺跡の宝庫 

足元から歴史を読み解く

文学部歴史学科考古学専攻 松本建速 教授

王子ノ台遺跡、芥坂遺跡、高間原遺跡……いずれも縄文時代や弥生時代にさかのぼる遺跡だ。さて、どこにある? 驚くなかれ、答えは湘南校舎。文学部歴史学科考古学専攻の松本建速教授は、これらの遺跡の資料を教材に取り入れるなど、「足元から考古学を考える」取り組みを続けている。青森県での発掘調査から戻ったばかりの松本教授を訪ね、考古学の魅力について聞いた。

「歴史は、権力者や国家、文字を使える人々だけのものではなく、人間すべてのもの。誰の歴史でも等しく語れるのが考古学だと考えています」と松本教授は言う。

長年、調査対象にしているのは、北海道から青森、秋田、岩手など東北北部。縄文時代からその地域に住んでいたアイヌ民族と、現在の日本語の基になっている“やまと言葉”を話す人々との文化が、「どのあたりで分かれるのかを考古学的に説明したい」と考えてきた。

青森県六ヶ所村の歴史研究会から講演に招かれたことをきっかけに、昨年度から同専攻の必修科目である考古学実習を兼ねて「六ヶ所村金堀沢遺跡発掘調査」を実施。今年も8月27日から9月8日まで、3年生3人、2年生19人に卒業生や大学院生も加わり総勢27人が参加し、8メートル四方、深さ1.3メートルの竪穴式住居跡を発掘した。

初めて本格的な発掘調査に臨む学生たちに向けて、「千年以上かけて堆積した土が、なぜここにあるのかを考え、慈しむように掘ってほしい」と話したという。同遺跡のあるあたりは、西暦915年に十和田火山が大噴火したときの火山灰が堆積している。掘り出した土に火山灰が混じっていないことを確かめ、住居は噴火後に造られたものと仮定した。

今回の調査では、鉄器を造る際に送風用に使うフイゴから炉に向けられた「羽口」という道具も掘り出された。掘り当てたのは、3年生。「黒曜石の破片だと思っていたのが羽口だとわかり、ものすごく驚いていた」と松本教授は目を細める。

考古学を身近に遺跡の案内板作りも

「遺跡はピラミッドや三内丸山遺跡など有名なものだけではありません。今、立っている地面の下にも昔の人々の生活の痕跡は眠っています」と松本教授。1年生が学ぶ「考古学研究入門」では、湘南校舎内にある遺跡の解説板作りに取り組んでいる。30数人を6グループに分け、掲示門の外側にある真田大原、8、15号館が建つ水尻、野球場から陸上競技場にかけての芥坂、アメフト練習場がある高間原の各遺跡を1カ所ずつ、1号館から11号館にかけて広がる王子ノ台遺跡は2グループで担当。発掘に携わった同専攻の秋田かな子准教授と宮原俊一講師から調査の様子を聞いたり、校地の地形に残る遺跡の痕跡などを確認したりして、3号館の収蔵庫にある出土物なども見学。また、休みを利用して神奈川県内の史跡などを訪ね、そこにある解説板の材質、文字の大きさ、図版などを調べた。それを参考に、「誰に何を伝えたいか」を考え、言葉使いや図版の有無などを検討して案内板を作成。成果は、年度内に3号館の文学部展示室に展示される予定だ。

「小さな遺跡は、華々しい大発見こそないが、そこにあるのは私たちを含めた多くの人々の暮らし。小さな事実の積み重ねが歴史を書き換えることもある。足元の遺跡を知ることで考古学を身近に捉えてほしい」



focus
文献だけに頼らず
物質文化で人間の歩みを考える


生まれ育ったのは北海道洞爺湖町。子どものころ、祝賀ムードに包まれた「北海道百年記念」の百年という数字に疑問を感じた。「歴史の教科書には何千年も昔のことから書いてあるのに、北海道のことはほとんど何も書いていない。不思議でならなかった」
それが、文献だけに頼らず発掘により明かされる物質文化で人間の歴史を考える考古学に惹かれるきっかけになった。

大学院生のとき、青森県弘前市にある砂沢遺跡の発掘調査に参加。縄文時代末期の遺跡とされていたのが、水田遺構が発見されて一転、弥生時代前期の遺跡とされた。その結論にも違和感を覚えたという。「出土する土器は一貫して類似している。縄文文化を担っていた人々が水田を作ったと考えています」

現在の研究テーマは、古代、東北地方にいたとされる「蝦夷」と呼ばれる人々。蝦夷は『日本書紀』や『続日本記』で征伐される対象として描かれている。「権力者側が記した文献だけではなく発掘調査で解き明かしたい」という。「古代の人々の暮らしを想像するには、人間とはどういう存在なのか、常に考えることが大切。人間に対する深いまなざしを持つことで、時間も場所も飛び越えて、古代の人々と出会うことができるのです」
 
まつもと・たけはや
1963年北海道生まれ。信州大学人文学部卒業。同大学大学院人文科学研究科修了。岩手県埋蔵文化財センター勤務を経て、筑波大学大学院博士課程歴史・人類学研究科単位取得退学。博士(文学)。2005年から東海大学文学部。主な著書に『蝦夷とは誰か』(同成社)など。

(写真上)六ヶ所村の発掘現場。土の堆積状況を調べるために中央に十字形のセクションベルトを設定し、丁寧に掘り進めていく
(写真中)調査で発掘された「羽口」。粘土を固めて乾燥させただけのものだが、高温で熱せられた木炭の灰が釉薬のような効果をもたらし、炉内に差し込まれた先端部が陶器のように黒光りしている
(写真下)王子ノ台遺跡から発掘された土器

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