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研究

2023/08/01

【情報技術センター】線状降水帯のメカニズム解明へ

気象庁気象研究所・JAXAと共同研究

各地で相次ぐ豪雨被害予測精度の向上目指す

情報技術センター(TRIC)が5月から、気象庁気象研究所、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共に線状降水帯のメカニズム解明と災害リスク分析を目指した共同研究をスタートさせた。熊本キャンパス屋上にJAXAの観測機材を設置。3者が協力して豪雨の予測精度向上を目指した研究を進めていく。

 

研究チームの(左から)直木技術職員、

中島所長、白水助教

近年、日本各地で甚大な豪雨被害が相次いでいる。気象庁気象研究所では、大学・研究機関との共同研究などを通じて、豪雨をもたらす線状降水帯のメカニズム解明に取り組んでいる。衛星リモートセンシングをはじめ、地球観測や画像技術の先端研究を展開するTRICでは、この研究の推進への貢献に向けて、「線状降水帯の機構解明及び予測技術向上に資する研究の推進に関する協定」に参画。JAXAを交えた3者間で同協定に基づいた共同研究契約「全球降水観測計画(GPM)等の衛星データと地上観測測器による線状降水帯の機構解明に関する研究」を締結した。
 
熊本キャンパスの屋上にはJAXAの観測機材である、落下雨滴の反射波から降水量や雨滴落下速度を測定する「マイクロレインレーダ」と、照射したレーザー光の間を通過する降水の強度などを測定する「ディスドロメータ」が設置され、得られたデータは線状降水帯を構成する積乱雲群等の内部構造に着目した研究に活用されている。

 

熊本キャンパスの屋上に設置されたJAXAの

観測機器「マイクロレインレーダ」(左)

と「ディスドロメータ」

TRICからは、中島孝所長(情報理工学部教授)や白水元助教(建築都市学部)、直木和弘技術職員らが参加。高密度集中観測に協力し、豪雨災害発生前後のリスク評価・分析、災害防災研究を展開している。衛星リモートセンシング技術を活用した雲の成長消滅過程の可視化に成功した実績を持つ中島所長は、「本学は線状降水帯が多く発生する熊本県にキャンパスがあるため、この研究を進めることで学生や教職員、そして地域住民の人命や財産の保護につなげたい」と語る。
 
また、集中豪雨に起因する水害等の災害防災研究を専門にする白水助教は、「国や各自治体が持つ地形や河川、林班(森林区画)のデータも分析し、線状降水帯が発生した際の災害リスクを割り出して、SNSなどを通じて情報も発信したい」と意欲を見せる。さらに、「現在、各自治体が発出する避難指示や災害発生情報は、科学的・客観的な根拠が希薄な場合が多い。本研究の成果は適切な発令対象区域の指定や発令のタイミングの判断に役立つと期待しています」と話している。

 

【研究最前線】線状降水帯の機構解明につなげる

今年の夏も、線状降水帯に起因する豪雨災害が日本各地で相次いでいる。土砂崩れや河川の氾濫につながり、甚大な被害が発生する一方、その発生メカニズムは解明されていない。情報技術センター(TRIC)では尊い人命や財産を守ろうと、5月から気象庁気象研究所による「線状降水帯の機構解明及び予測技術向上に資する研究の推進に関する協定」に参画。宇宙航空研究開発機構(JAXA)を交えた共同研究をスタートさせた。 

 

線状降水帯は、発達した積乱雲が組織化して線状となって停滞し、数時間にわたって同じ場所に強い雨を降らせる。「平成30年7月豪雨」では、西日本で200人以上の命が奪われ、2020年に熊本県人吉地方を中心に発生した「令和2年7月豪雨」では生活インフラが大きな被害を受けた。今もなお1000人以上が仮設住宅での生活を余儀なくされている。各地で被害が広がる中、編集部が東海大学生200人に「住んでいる地区で特に心配だと思う自然災害はありますか?」(複数回答可)とアンケートしたところ、「豪雨」と回答した学生は107人。2018年に同様の質問をした際には67人だったことから、被害を危惧する学生が大幅に増えたことが分かる=詳報次号。

 
線状降水帯のメカニズム解明や被害軽減策の確立が急がれる中、TRICは気象庁気象研究所やJAXAと共に「全球降水観測計画(GPM)等の衛星データと地上観測測器による線状降水帯の機構解明に関する研究」をスタートさせた。TRICでは、熊本キャンパスの屋上に設置されたJAXAの観測機材で取得したデータの分析を計画しており、中島孝所長(情報理工学部教授)は、「設置から2カ月余りで、すでに興味深いデータが集まっています」と語る。「7月3日に観測された降雨データを見ると、途切れることなく強い雨が降り続く時間帯がありました。今後詳しい分析が必要ですが、このような継続的な降水現象が大きな被害をもたらすのかもしれません。衛星観測と地上観測を駆使して、強い降雨現象の科学的理解の促進、および線状降水帯発生時における災害リスクの軽減につなげたい」と展望を語った。
 

地形データなども活用し精度の高い防災情報発信

今回の研究では、災害リスクに関するSNSでの情報発信システムの構築も目指す。集中豪雨に起因する水害等の防災研究を専門とする白水元助教(建築都市学部)が研究の中心を担い、「地形や渓流・河川の位置、地表の被覆などを統合して被災リスクを評価することで、線状降水帯の発達が予期されるときに適切な避難情報を提供できます。まずは、被害が多発する熊本県でシステムを確立し、日本各地へと広げていくつもりです」と意気込みを語る。

 

サポートする内田理教授(情報理工学部)は、Twitterを活用した災害情報共有アプリ「DITS」と、その情報を地図上で表示する「DIMS」の開発に尽力した経験から、「防災情報の発信には正確性が重要です。観測機器で取得したデータとSNS上の書き込みを統合することで、より精度の高い情報を発信できます。学生や教職員だけでなく、地域住民の安心につながるシステムの構築を目指します」と語っている。

 

熊本から研究に期待の声 成果を農学教育にも活用 

研究のフィールドとなる熊本キャンパスの木之内均熊本キャンパス長(文理融合学部教授)は、「線状降水帯による豪雨は突発的に発生するため、学生や教職員の安全を守るためにも対策が急務だと考えています。学園のリソースを駆使して、地域にも貢献できる研究を展開できることを誇らしく思うと同時に、ありがたいとも感じています」と感謝を口にする。さらに、「農学研究において、天候は欠かせないピース。本研究の成果を学生たちの教育にも活用していきたい」と話している。

 

【所長に聞く】知識を結集して社会に貢献する 

情報技術センター 中島 孝所長

 

情報技術センターは、「過去から未来に至る地球の歴史」をしっかりとした目で見据えるべく、1974年に開設されました。以来、衛星リモートセンシングをはじめとする地球観測や画像技術の先端研究を展開しています。

 

近年では大気・陸面・海洋・海氷の衛星観測に加えて、災害情報の発信やIT農業林業支援、画像修復、文化財の保存など多岐にわたる研究成果を発表しています。今回の取り組みが気象庁気象研究所やJAXAとの共同研究であるように、大学や国立研究所、そして民間企業など多種多様な機関と連携して研究していることも特徴の一つです。

 

現在、地球規模で気候変動が進んでおり、メカニズムの解明と正確な予測が急務でもあります。これからもさまざまな知識を学際的に活用し、社会貢献へとつなげていきます。

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