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特集

2011/12/01
研究室おじゃまします!
各分野の最先端で活躍する東海大学の先生方の研究内容をはじめ、研究者の道を志したきっかけや私生活まで、その素顔を紹介します。

一瞬の世界を測る温度計を開発中

半導体加工や医療を変える
産業工学部電子知能システム工学科 中宮俊幸教授

日常のさまざまな場面で利用されている「温度計」。昔ながらの水銀を使ったものからデジタル式まで、用途に応じて多種多様のものが開発されている。産業工学部電子知能システム工学科の中宮俊幸教授は、10億分の1秒の時間幅で照射されたパルスレーザーが生み出す温度変化を、リアルタイムで測ることのできる新しい温度計の開発に取り組んでいる。一瞬の出来事を調べることで見えてくる可能性とは?

そもそもパルスレーザーとは何だろうか? 「ひとくちに言うと、ごく短い周期で点滅を繰り返すレーザーのことです。1980年代ごろから盛んに研究されるようになってきた技術で、2002年にノーベル化学賞を受賞された田中耕一先生の研究は、これをタンパク質に当てて気化・検出する技術に関するものなんです」

近年ではこのほかにも、新素材として注目を集めているカーボンナノチューブの製造や角膜矯正手術などの医療分野で幅広く利用されている。大きな可能性を持つため、世界中で研究されているが、これまでは大きな問題を抱えていた。

「ある固体にレーザーを当てたときに、どのような変化が起きるかを調べるためには正確に温度を測ることが欠かせません。ところが、パルスレーザーは照射時間が短く、対象に当てた瞬間の温度を正確に測れる温度計がありません。そのため、コンピューターによるシミュレーションでおおよその温度を予測するしかなく、部品加工や医療などで利用する場合にも人の経験に頼る部分が大きいのです」

過去の研究成果を生かし 正確なデータを計測
中宮教授はコンピューターシミュレーションが専門で、これまでパルスレーザー光の照射時間による温度分布の計算も実施。研究データは世界的な科学雑誌「サイエンス」に引用されるなど高い信頼を得てきた。

「研究を進めるうちに、シミュレーションに頼るだけでは限界があることを実感した。ならば直接計測できる温度計を作ろうと考えたのがきっかけでした」開発に際しては、産業工学部の園田義人教授が開発した光を使った集音装置「光波マイクロホン」の技術を応用。物質がパルスレーザーで暖められたときに出る熱波の電気信号の強さを光センサーで測り、温度に変換するシステムを作り出した。電気信号を温度に変換するために必要な計算式は、これまでの研究で蓄積していた結晶シリコンのシミュレーションデータをもとに作成。検証実験を重ねて計測の精度を上げている。

「この方法だと、10億分の1秒の時間幅で照射されるパルスレーザーによる温度変化を、対象物に触れずにリアルタイムで測ることができます」現在、実験で用いている装置は幅2メートル弱の大がかりなものだが、小型化も進めている。 

「温度が正確に測れるようになれば、これまで以上に精度の高い半導体加工装置が開発できるようになる。そのほかにも、パルスレーザーを使った病気の治療を、より個人の特性に合った形で施せるようにもなります。実用化まであと少し。一日も早く製品になることを期待しています」

focus 好奇心とあきらめない持続力で
     スリルあふれる未知の世界を開く

「教科書やインターネットで勉強すると、世の中のことが分かったような気になるでしょう。でも、そんなの世界のごく一部。学生や子どもたちには、いろいろなことに興味を持ち、実物に触れて自ら新しい世界を発見するスリルを味わってもらいたいんです」

大学生のころから、発電所で使われるモーターが発する磁場や新素材アモルファスシリコンの性質を、コンピューターでシミュレーションする研究に取り組んできた。「コンピューターが得意そうだからと、大学の先生から声をかけられたのがきっかけ。以来、自分の得意分野をどのように生かせば世界と渡り合えるかを考え、面白いと思ったテーマをこつこつと続けてきました」
 
「好奇心を持とう」とはよくいわれるが、「あきらめないことも大事」と語る。モーターの磁場を測り始めた当時は、世界的にも研究が始まったばかりで試行錯誤の連続だった。複雑な動きを持つ磁場の性質を、ほつれた糸をほぐすように解いていく日々。それを少しずつ明らかにしていった結果、高効率のモーターの開発に生かされ、省エネ家電や風力発電を支える技術として活用されるまでになっている。

「未知の分野に挑戦するのはリスクではない。私たちが生きているこの自然の中には、まだまだ分かっていないことがたくさんあるんです。先人が解き明かした世界に閉じこもらず、知らない世界にどんどん飛び込んで、一つでも二つでも謎を解明していってほしい。もちろん私も挑戦し続けます」

 
(写真上)パルスレーザーの技術は幅広い分野への応用が期待されている
(写真中)実験装置には、これまで取り組んできたさまざまな研究の成果が詰まっている
(写真下)ゼミの学生とともに。中央が中宮教授

なかみや・としゆき 1977年、熊本大学大学院工学研究科電子工学専攻修士課程を修了。92年より九州東海大学講師、2008年から現職。東海大学大学院総合理工学研究科教授兼任。

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