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特集

2012/07/01
研究室おじゃまします!
各分野の最先端で活躍する東海大学の先生方の研究内容をはじめ、研究者の道を志したきっかけや私生活まで、その素顔を紹介します。

人工衛星で雲の謎を追いかける

先端技術を駆使して仕組みを解明
大学院工学研究科兼情報技術センター 中島 孝教授

空を見上げるとふわりと浮かんでいる雲。見慣れた存在だが、実はまだまだわからないことが多い。人工衛星の観測データを使った雲の研究に取り組んでいる、大学院工学研究科兼情報技術センターの中島孝教授を訪ねた。

雲は、エアロゾルと呼ばれる微粒子を核にして成長した水や氷の粒子(雲粒)が集まってできている。地球の熱の出入りに大きく関与するばかりか、地上に真水をもたらすなど、生物にとって欠かせない存在だ。ところが、雲が成長し消滅に至る諸過程については謎が多いという。「地球科学は科学者にとって関心の高いテーマの一つ。雲や大気の動きについて世界中の研究者がスーパーコンピューターなどを使ってシミュレーションをしているのですが、解明できていないことのほうが多いくらいです。そこで観測が重要になる」と中島教授。

複数のセンサーを利用し地球の雨雲分布を解明
なぜ雲の謎を解明するのに、人工衛星で観測する必要があるのだろう?「地球表面の約7割が雲に覆われていますが、地上から雲を観測した場合、そのごく一部分の様子しか見ることができません。しかし、大気は数週間で地球を1周していて、たとえば今日日本で雨が降ったとすると、もとになった雲は数日前に遠い西方で生まれたものだったりする。雲を研究するためには、地球全体での動きを捉える必要があります」

中島教授は、各国が打ち上げている地球観測用の人工衛星から送られてくるデータを分析する独自の解析プログラム(アルゴリズム)を開発。地球科学、画像解析技術、情報システム技術を駆使して、地球全体の雲の動きを追いかけている。高い注目を集めている成果の一つが、宇宙航空研究開発機構(JAXA)在職時に開発に携わった地球観測衛星「みどりⅡ」を使った研究だ。

搭載されていた2つの異なるセンサーを複合的に使って、雨になる雲粒の大きさを計測。人工衛星の画像データから、どこで雨が降りやすくなっているかを分析した。雲粒1つの大きさはわずか数十ミクロン。その情報を画像データの中から抽出するのは気の遠くなりそうな話だが、研究を支えているのは基本的な物理法則だという。

極小の雲粒を分析してアルゴリズムを組み上げる
「1つの雲粒に光が当たったとき、角度の違いなどによって光り方がどう変わるかは物理法則で決まる。その法則を手がかりに、雲全体の様子を光学センサーで探るアルゴリズムを組み上げていきました」

現在は、JAXAが開発している雲エアロゾル放射観測衛星「EARTH―CARE」や地球環境変動観測衛星「GCOM―C」などに参画するとともに、気象庁の新型衛星「ひまわり8号」の利用にも関与する。「新しい衛星が打ち上がれば、雲の内部構造の変化がわかるなど、より詳細な観測が可能になる。そうなれば、大気や雲への理解もより深まるでしょう。いずれは、短期変動から長期的な傾向まで正確に予測できるようになるかもしれない。個々の雲の雨の降りやすさを予測するなど、防災にも役立つ日が来ると期待しています」

focus できない理由を考えず
    行動すれば発見が待っている


実家に、1981年の部分日食を写した写真が今もかけられている。当時12歳だった中島少年が撮影したものだ。「日食が発現すると聞いて、ならば撮ってみようと。望遠鏡は家にあったものを使い、カメラは一眼レフを知人から借りました。機器の接続方法やカメラの設定を科学雑誌で調べまくって、どうにか撮影できたんです」

雑誌には専門用語が満載だったが、自力で解読していった。インターネットのない時代。しかも使うのはフィルムカメラ。望遠鏡の特性やカメラの仕組みと格闘して、なんとか成功させた。「何かをできない理由は考えない。そういう性分なんです。あきらめなければどこかに答えはある。その思いは今も変わりませんね。今年5月の金環日食も、東京は曇天の予報でしたが3時間粘って撮影しました(笑)」

日ごろ大切にしているのは、どんなものも面白がること。「テレビのバラエティー番組だって、くだらないなと思いながら面白がる。漠然とした興味でもいいので、何かを感じたときにどうアクションを起こすかが大切だと思う」。専門と関係ないことでも、興味を持ってみる。そうすることで視野が広がり、思わぬ発見につながっていく。「興味を持って調べたり勉強したことは、聞いただけの知識よりもずっと実になる。身近にあるものにも、まだ見えてない側面があるかもしれませんよ」

 
なかじま・たかし
1968年東京都生まれ。東京理科大学理学部卒業。東京大学大学院理学系研究科(地球惑星物理学専攻)修了後、宇宙開発事業団( 現=JAXA)に勤務。2002年に東京大学で博士号取得。05年から東海大学情報デザイン工学部准教授、情報技術センター研究員、12年から教授。

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